3




「っあ…………」

一瞬何が起こったのか理解できずに体が硬直していたがはっと我に返る。一瞬の静寂の後に部屋のドアの外は静寂から一転、数人のドタドタとした足音と話声。
え、何、どうしようどうしよう。なんか、人が、此方に来てる!!

バンと扉が開き、スーツに身を包んだ男の人たちが十数人一気に部屋になだれ込んできた。

私を見るなり一斉に映画でしか見たこともない銃(らしきもの)を向けられ、状況も分からないまま呆けてその黒光りする筐体にくぎ付けになる。その男たちの剣幕に冷や汗が流れた。

私に逃げる気がないのかわかったのか、その中の貫禄のあるてっぷりとした中年の人物が私に向って大声で怒鳴った。何かを言っているようだったが、―――――何語??
早口で何かを捲し立てているがいかんせん何を言っているかわからない。かちゃっと硬質な音を立てたので、ひっと両手を高く上げる。怯えきった侭何も言わない私を見て男たちも顔を見合わせて困ったように顔を顰め、何かを相談し始めた。
―とにかく、逃げなくちゃ、と思った。
完全に委縮してしまった体で、ただそれしか考えられない。とにかくこの大人数の強面の男たちから逃れられれば如何にかなると思った。
何かないか、何かないか、と目を落ち着くなく動かして、男たちの方を窺っているとその背後に目が行った。

ドアが……開きっぱなしになっている!
彼らが正に今進出してきた扉が半開きだ。
逃げられる、という希望で逆に泣きたくなった。男たちは話に夢中で私を見ている人はいない。

―――いまだ!!

地を思いっきり蹴って、向かって一死に有る一点のゴールだけを目指して走る。
捕まるかもしれないとか、出れたところで次に如何するのかは全く考えていなかった。とにかく、とにかく私にここは恐ろしすぎたから、逃げ出したかった。もう、夢だとか如何とか頭からすっぽり抜け落ちてる。今まさに、逃げ出そうとする私は確かに現実だ。背後で怒声が聞こえる。手らしき多数が私の背中で空を切る。全て、どうでもいい。

やった、あと少し―――とおもった時、遂に私は捕まってしまった。強い力で腕を掴まれて、引き戻される。それに驚いてパニックに陥った私は、どうにかして束縛から離れようと一心不乱に暴れる。

「い、いやあ、放して、放して放して!!!はな………っ!!」

鈍い嫌な音が耳の向こう側で音を立てた。

「え…………?」

何が起こったかわからない。
氷でも押し付けられたかのような冷えた後頭部。段々、ズキズキと痛みだし、熱くなってきた。電池の切れた玩具のように抵抗が止まる。もうその右腕は大きな男の手から逃れていた。顔を上げると男の驚いたかのような顔が見えた。
それにしても、頭が、熱い。庇うように手をやると、ぬるっとした感触。
恐る恐る自分の掌を見ると、あかい。
血だ………。
………血だ、血だ血だ!!

「あ、ああああ、あ」

半狂乱に、とにかく暴れて暴れて、何を言ったかも正確に思い出せない。ひたすら、血が血がと叫んでいた気がする。
うっと息の詰まる衝撃が手足の自由を奪って、意識はブラックアウトした。



.

[ 3/114 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -