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意気消沈でとぼとぼ歩く私に大丈夫か、と声をかけてくれるオジサマ、お兄サマたちを交わして部屋に向かう。ビシッと漆黒のスーツで決めていて、これから仕事に向かうところなのだろう、働きに出る人たちの背中は何となく逞しくみえる。いけないいけない、私劣等感丸出し…!

自分の出来る事をしよう、と気を取り直して、勢いよく扉を開けると……


案の定死んでた。




まず目に入ってきたのは机に突っ伏した白い塊。近付くとそれが人間だとわかる。白いのは彼の標準装備の白衣だ。そして散乱する小難しい医学書かなんかの書物を枕替わりにしている多分グッスリ眠りの世界にいらっしゃるその人。散らばるサラサラの黒髪。なんともその寝顔が頂けない。大概人の寝顔とは実際より幼くなるらしいが、例外は必ずいるものでこれは全くそんな可愛らしいものではない。いつもの無表情をそのまま貼り付け、変わっているのはただ目を閉じているという事実のみだ。体も微動だにしないのでまるで死んでいるように見える。最初は本当に死んじゃったかと思って半泣きで体を揺さぶったら、睡眠を邪魔されたのが気に喰わなかったのだろう、のそっと起きてグーで頭を殴られた。折角すっごく心配したのに…ひどすぎる……それ以来この人が寝ていてもなるべく無視だ。



なんなんだろうこの人は何処行ってたんだこの人は……いつの間に帰ってきたんだこの人は……


毎度これを見て思うのは大概そんなこと。お仕事で疲れてるのはわかるけど、なら自室のベッドで寝ればよいのにわざわざ医務室の机に……。

まあ、これも慣れたものなので普通にスルーして彼に私のベッドの毛布をかけてやる、それでもまだ起きない。

部屋の端には段ボール箱とその上に領収書とリストが重ねて置いてあり、注文した品物が届いたのかと早速中身を取り出す。中身は、包帯から風邪薬頭痛薬等の錠剤、粉薬湿布薬塗り薬氷嚢エトセトラ……注文書通り全部揃っているようだ。それを薬棚の中身にチェックを入れながら足りない物は補充していく。毎日繰り返している事なので、何処に何があるかなんて尋ねられたら一発でわかる自身がある。それがここを任せて貰える必須条件であり、決して間違えは許されない。医療用具及び薬の類は必要となったら迅速に取り出され、正しく使われなくてはならない。アレクさんに口酸っぱく言われたことだ。


その後、治療に訪れた部下さんたちの軽い処置と、楽しい世話話と。ここに意味も無く訪れる人は少なくなく、飲み過ぎた二日酔いの顔色のわるい人には頭痛薬と、と念の為の胃薬を押し付けておいた。みんな、寝ているアレクさんを見てニヤニヤ笑っていた。なんやかんやで賑やかだった医務室だが、それでもアレクさんは起きない。





一通りやるべきことを終え、人も居なくなる落ち着いた午後二時ごろ。それからが、私の自由時間となる。

身仕度を整え、未だ夢の中のアレクさんを起こさなくては。
この時は、容赦無くやってしまうが一番良い。
手持ちのスケブを、大きく振りかぶって………


起きろよこらあああぁ………!!!


勢いよくズバンッと彼の頭が大きく鳴り響いたところで、一呼吸してから………目が開いた。
ジッと私を見つめているので少し怖い。
すかさず紙面を前に出す。

『私ちょっと出て来ます
ちなみにやっておきましたから




勿論、薬品整理のことだ。

「あ…ああ、ありがとうございます
どうぞ…行ってきてください」


分かりやすいように顔の横にさっきのバスケットを置く。あ、また瞼が落ちた、また寝るつもりなのか!!私が居ない後はアレクさんに患者さんの相手をバトンタッチのはずなのに……
もう、今日はこないだろうしいいか…相当疲れているみたいだし。


静かに部屋を出ようとすると、

「カバンの中に、入ってますから持って行きなさい、最新機種ですよ」


はいはいはいはい。
置きっ放しのビジネスバックをガサゴソとあさるとデカい苺の付いたピン止めが出てきた。へー次は髪飾りなんだ………でも苺……?これを髪に付ける私はどんなに幼児だよ………いつもいつも、私はそんなに幼くないって言ってるのに!!外見がそう見えるって事ですか!!確かに日本人は若く見られるって聞くけどこれはあんまりだ…………かなりヘコむ…。
せめてもの悪足掻きに髪ではなくポシェットのヒモ部分に外れないようにカチッと付ける。



アレクさんに行ってきますを心に呟いてから今度こそ私は部屋を出た。





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