1



私の一日は部屋に入る眩しい朝日に起こされて始まる。

低血圧の私は全く回らない頭に暫くベッドでぼーとしてからようやく重い体を引きずってのそのそ支度を始める。普段着に着替えたところでアレクさんの机の上の散乱具合と鞄がある事を事務的に確認し、昨日彼は帰って来ているのだとわかった。鏡で身だしなみをチェックしたあと枕元から白紙のあるスケブと紐付きマジックペンを取り出し、ペンは首に掛け、スケブは自分の手に。仕上げにお気に入りのオレンジ色のポシェットを中を確かめてから肩に掛けて、さあ用意が出来たと部屋を出る。
陽気に挨拶してくれる擦れ違うオジサマがたに会釈と笑顔を返しながら、食堂を目指す。ここでやっと頭が回転し始めた。



食堂と言ってもそれ程広い訳でもなく、普段はそこそこ賑わうのだか、朝早いせいで今は並べられた大振りのテーブルとそれに付属する椅子には誰一人居ない。カウンターからこぼれるグツグツと何かが煮える音と包丁の叩く音だけが聞こえて朝日に眩しい部屋に朝特有の柔らかい雰囲気を出している。


「あら、ユイちゃん
おはよう!!今日も早起きね〜」

―おはようございます

カウンターの窓口から見知った顔がこちらに気付いて顔を出した。
私もペコリと頭を下げる。

「んもう、いつからそこにいたの〜?
来たらすぐにそこのベル鳴らしてって言ってるでしょ」

窓口の隣りを指しながらプンプン怒りだした。それに私は苦笑いしか返せない。どこの誰が朝のお勤めに忙しい厨房の人達の邪魔が出来ると言うんだ。


彼女は厨房担当のマリアさん。大概食堂にいて、いつも美味しい料理を振る舞ってくれる。元々この屋敷の雇いメイドさんだったのだが、作る料理が非常に好評だったらしく大抜擢、そのまま厨房責任者になってしまったらしい。トレードマークはピンクで花柄のエプロン。何より気さくなお茶目さんで、私が食堂に訪れる様になるといつも笑って声をかけてくれる。年齢的には私のお母さんぐらいなのだが、その可愛らしいエプロンが妙に似合う年齢不詳の女性。私は元気でこざっぱりした彼女が好きだ。それで、毎日私はわざわざ彼女が一番暇な時間、早朝にまだ眠い目を擦りながら朝食を取りに来ている。第一、後一二時間したら強面のオジサマ逹に賑わう中ここで食事なんて勇気は私にはまだないんだけど。

「で、いつものでいいかしら〜?

はい、これ飲んでまっててー!」


ぱたばたとカウンターから回ってから私に冷えたミルクの入ったグラスを押し付け、私が頷くのを見届けると、またニコッと私にお茶目な笑顔を送って奥に戻ってしまった。うーん、年を全く感じさせない………行動がいちいちかわい……







「おまちどうさま
熱いから、気をつけて食べてねっ」


テーブルの上に温かいオニオンスープとレーズン入りコッペパン二つ。スープから漂う美味しそうな匂いに食欲がそそる。早速テーブルに付き頂く事にした。
テーブル向かいの椅子に腰を降ろし手を付ける私をニコニコ眺めているマリアさん。今は手持ち無沙汰な様だ。


「お味はどうかしら?
昨日作り置きした物だから……風味が落ちてないといいんだけどっ」

いやいやさいっこうに美味しいです、五臓六腑に染み渡りますとも!!夢中でパンをスープに付けて口に放り込んでいた手を止めてまさかと首をふる。だって本当に美味しい!朝は余り食べられないのでスープとパンのみだがそれでも十分にイケる。私は前は朝御飯食べない派だったのに今ではスッカリ朝の常連だ。


「ふふっ、そんなにおいしそうに食べてくれてありがとっ
作りがいがあって嬉しいわ」

ふにゃーと嬉しそうに笑う顔がまた可愛らしい。
「あ、口にパンくずついてるわよ〜」

私の口端のパンを摘んでペロッと舐めて食べてしまった。思わず、赤面する私も何のその、私も食べたくなってきちゃった、と食堂に戻ってしまう。
こ、この人はあ……



「あっそういえば、聞いたわよ〜ユイ
貴方、ヤツのところで世話になってるらしいじゃないのっ」

すべて完食した私とマリアさんはそのまま談笑に入る。勿論、私はマイ☆スケブを使った筆談だ。でも、彼女はどうしてももたもたする私との会話にイヤな顔一つしない。ここの人達は優しい人々ばかりだ。今や筆談のプロと成りつつある私はジェスチャーも織り交ぜる術を身に着けたので、結構とんとん拍子に話は進むのだが。
先程まで、マリアさんは和やかに今日のスープの味付けについて語っていたはずだが…………突然変えれた話題に頭をひねる。

「なんで言ってくれなかったのよぉ〜、あたしびっくりして……」

少し口を尖らせて文句を言っているが、話が見えない。
……「ヤツ」とは、誰の事だろうか……お世話になってる……それって…

『アレクさん

   ですか?』






[ 35/114 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -