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……………う、えっ!?何の前触れも無くいきなり向られた二つの視線にギクリと体が飛び上がってしまった……二人と目が合っちゃった!!まずい!!
サッと視線を下へと戻す。バレただろうこれはバレた。無駄だとは思ったが、慌てて鉛筆を動かしているふり。


顔を上げないように腕だけを動かしていて何分か。もう十二分の時間が経っていると思うけど……。耳だけそばだてても何のリアクションも起きないので、ソロリと顔を上げたら目線の先には
こっちを苦々しげに見るだけのディーノさんと彼に手を軽く上げて私に近付いて来た叔父様だった。認識したディーノさんの友好的でない態度に胸がぐちゃぐちゃになる。邪魔だってか、私が?!そっちが勝手に私をほかってずっと話をしていたくせに…!!……どうしてディーノさんの行動一つに心が揺れてしまうんだろう…。




そうこう考えるうちに革靴が近くでコツリと音を立てたのが分かった。私をすっぽり隠してしまう大きな影。大きなてを頭にポンと乗せられた。目を細めて柔らかく私を見つめるロマーリオさんは、


「ごめんな、ボスを少しかりる
すぐに返すから…」

ごめんなと何回かぽんぽんぽんぽんと頭を優しく叩きながら低く屈み目線を合わせ私を諭した。優しい手つきに少しささくれた心が穏やかになる。私、頭になんかされる率高いなあ……とぼんやり思う。
この人は………本当に大人だ。私がディーノさんになんだかんだ依存しているのを分かっている。私を完璧に子供扱いしている言葉にディーノさんといい、この人達は私を何歳ぐらいだと思っているのか(そういえば正確な年齢は明かしてなかった気がする)と疑いたくなるが、私の心の趣を踏まえた上で謝っている。ディーノさんにはまだない落ち着いた大人の雰囲気、これが年の功と言うものか。大きな包容力にぼーとしながらもコクリと頷いてしまう。四十代もなかなかよいなあ、惚れてしまいそう…。なんて考える馬鹿な私……。



私を諭した後、緩やかな足取りでディーノさんのもとに戻ってしまった。二人は二言三言言葉を交わした後、あ、ディーノさんロマーリオさんに小突かれた。ディーノさんが恨めしそうに文句を言っている。
空気が和やかに変わったのが分かる。よかった、二人とも笑顔だ……。







私に立て込んでわるいと謝ったあと、時間が差し迫ってきたようで二人とも私にそれぞれ別れの挨拶を投げ掛け部屋を後にしようとする。
また会えるのはいつだろうか、やはり寂しいな。





と、ドアノブを回そうとするディーノさんの動きがふと止まった。クルリとこちらに向き直る。
忘れ物でもしたのだろうか。さっきは私に笑いかけてくれたし、ちゃんとディーノさんの顔が見える。私をジッと見つめているし、私に何か用だろうか。カッコいい顔にそんなに見つめられると照れるのだけど……



「……オレ、頑張ってくるから、全部片付けてここに帰ってくるから、…だから



   いいこにして此処で待ってな






一気に距離を詰められて、最後の言葉は耳元で囁かれた。
前のものとは違う、熱く、とても甘い。
耳に当たる熱い吐息に、庇おうと反射的に手を当てる。その腕の動きを大きな熱を持つ手に押さえ込まれ、次に髪のサラリとした触れる感触、と特有の香水の香りが鼻に付いて、そして、そして―――



――ちうっ






「じゃーオレ行くわ!!」


ニヤリと意地悪く私に笑い掛けるディーノさんがドアをぬけるのを呆然と見つめている事しかできなかった。ロマーリオさんは気を確かに持てよと軽く私の肩を叩いてその後に続く。それにも反応できなかった、もう、頭の中真っ白。



恐る恐る違和感を感じる右頬に掌を持っていく。自分の一部だと確かめるようにすっと指を滑らす。



え、今私、あの人何、した……?私の頬に何か生暖かいものが当たって、それが存外柔らかくて、ふに、て感触が、まだ頬に残ってて、まさか、あれが俗に言う、ほっぺにちゅー………



「……―〜!?」



―――やられた!!!
全て持って行かれた!!!!



体中の血液が沸騰してしまった。顔が何より熱い、それ以上に、ディーノさんの唇が触れた……頬が熱い………!!!! 


やりやがったな、あのやろう………!!!
しかし、あの時のディーノさん…艶っぽくてカッコよかった…………なんて思ってないんだから!!!!!あああ、あついい!







いつまでも冷めない熱に立ち尽くしかない私は、少し経って帰ってきたアレクさんに熱があると、勘違いされ手厚い看病(と言う名の拘束)と日頃の不衛生が祟ったのだとお説教を食らったのでありました。





ぜえったい仕返ししてやる、あの金髪野郎……!!と息巻いていろいろ計画を考えていた私だったが、それが実行される事はなかった。



再びディーノさんと会うのはもう少し先の事となる。




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