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ディーノさんは目の前の黄色と黒の掛かった白い物(その名も葛餅)を右手にナイフ左手にフォークで正しくお上品に頂こうとしている。もっとも、彼には逆効果の様でそれぞれの手が皿の中をしっちゃかめっちゃかにしている……何か美味しくなさそう…。
ちなみに私はすでに平らげてしまっているのですることと言ったらおとなしく座ってディーノさんを観察しているくらいだ。……あ、また粉床にで落とした。
仕方がないので手元にあるスケブに落書きすることにする。久しぶりにポケモ△でも書くか電気ネズミにカメに尻尾が火のトカゲにううん、結構上手くかけたかも。なんとなーく思考を廻らせる時思い出すのは幼少のころの記憶である。ポ○モンはもう初期のものしか分からないな……でもゲームもカードもアニメもハマったなあ。前、何となくディーノさんに知っているか聞いたらなんだそれと変な顔をされたのでイタリアでは知られていないのか、ディーノさんが知らないのか…………私の今いる「ここ」には存在していないのか。どちらにしても帰る場所が無ければ、私にはどうでもいい。
最近、スケブにとても有効な暇つぶしのための使用方法があることに気がついた。私の通常装備は都合によりスケブと黒インクボールペン。それだけでできること、誰にも頼まずに迷惑もかけずにできること。何で今まで気がつかなかったんだろう。スケッチブックと言ったらそれしかないじゃあないか。私には結構向いているらしく、結構……楽しい。唯ひたすら手を動かしていればよい。完成しても誰かに見せる気は全くないけど。


一度書き始めると変な火がついた私がピカ○ュウをかわいーく書こうと何匹も何匹もとスケブに躍起になって向かっていたら、ぎしという音と共に紙面に影ができた。顔を上げるとディーノさん私の隣に座り、私のできの悪い絵を見つめている。ディーノさんが変な兎だなと漏らすのは本元を知らないのなら当然の事で、しかしラクガキなんて子供っぽいところを見られてしまったみたいで少し気恥ずかしいかったのでスケブを無理矢理バタンと閉じた。##NAME3##て絵上手いんだなと感心した様に褒められたがそんなのお世辞だなんて知っているんだよ……コノヤロウ。恨めしい気持ちでちょっとびっくりしている彼を見返した。ディーノさんはどんなことでもとりあえず褒めるから、信用できない。
なんだよもっと見せろよ〜と楽しそうに強請る彼は無理やり私の腕の中のスケブを開こうとし始めた。ちょ、ちょ待ってくれ、この中には私の恥ずかしいラクガキのオンパレードがあああ!!日々の軌跡があああああ!!決して見られてはならないいいいい!!決死で抑え込む私とヘラヘラ笑ってスケブを取り上げようとするディーノさんの攻防が続く。このままでは負ける!!絶対に負ける、力の差は歴然なのだから!!

込めていた腕の力をふと抜いたら、ディーノさんは驚いたようによろけて私を見た。そのすきに御留守となっている掌からスケブを引っ手繰る。押して駄目なら引いて見ろだ!!ディーノさんはえーと物欲しそうに指を加えて私の手元を見つめている。そんな可愛い仕草しても駄目!分かってるんですから!!ぜえったい私の過剰反応を面白がっているんだろうことを!!!!
私をからかうディーノさんから如何にこの腕の中のものを守るか本気で頭を巡らせる。だってディーノさんは冗談でやっているかもしれないけど、こちとらこの中の自分の無法地帯をわざわざ見せるつもりは毛頭ない。そうしたら何を思ったか、わりーわりーもうしねーよとへらりと笑って降参だという様に言った。あれ…まただ、変な違和感。何故だかその笑い顔が存外何時より元気がなさそうに見えて。




私は再びベッドに腰を落ち着け、スケブのまっさらなページをペラリと捲った。ぐちゃぐちゃの白い毛布が私の尻に敷かれている。ボールペンを握り直しながら、窓際の愛想のない簡易机の上にやたらに豪勢な皿と上に銀色に光るものが見える。食べるのを途中で諦めたのか、ぐちゃぐちゃになった食べ残しが………ちゃんと食えよ。そのままスタンバイの状態になっていると、ディーノさんが隣りに座ってくれたので、ペンを遠慮なく走らせることにする。


『あの、わたし どんなことでも聞きますから。ぐちでもなきごとでもわがままでもなんでも。それでも私はぜったいでぃーのさんのこときらいになりませんから。だから私に何でも言っていいんです。何にも出来ないとは思いますけど、でぃーのさんのためなら、私できるかぎりがんばりますから』

とりあえず日本語がおかしい事は認めよう。支離滅裂で何が言いたいのか分からない。うんと…言いたいことが言葉に出来ない……筆談はこういう時不便だ、いろいろ考えてしまうから。口頭だと何気に勢いでぽんぽん言葉が出て来るものだと思う。


あーとうんとーえーとだから私、

『だって』

『私 でぃーのさんのこと
だいすきですから』




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