1



「ユイ!!」

背後からがばあと包まれるように首に手をまわし抱きつかれる。デカイ図体に掛けられる衝撃に危うく前に倒れこみそうになった所をたたらを踏んで踏みとどまる。手に持っている書物もとり落としそうになった。こんなことをするのは………

ディーノさん!!

「久々だなー」

へらへら後ろで笑う気配がして、私の首に頭をすりすり摺り寄せて来る。視界の端に金髪が揺れて香水の香りが強くなった。

「ん〜ユイは抱き心地がいーなあ」

私が抜け出そうと暴れるのもなんのその、見事に私の体をホールドしてくる。本当にセクハラですからやめてくれー!!ぞぞぞーと背筋が何かが走って密着してくる逞しい体に心拍数が半端なくあがる。
ディーノさんはスキンシップがかなり激しい。妹宣言した時から更にエスカレートして遂に人目も憚らなくなって、通行人に生温い目で見られることもしばしば。私を愛玩動物かなにかのようにすごく過剰に愛でて来る。それに私は慣れることもなくこの通り力いっぱい抵抗はしているのだが、後ろに今もなおも張り付いている人にはまるっと無視されてしまう。まあ、好かれているのは分かるから嫌な気分はしないんだけど……。

「んお、本?もしかして書室に向かう途中か?」

満足したのかやっと腕から解放された。答えを返そうとスケブを取り出そうと本を置こうとするとひょいと書物の束を持ってくれた。ジェントルマンだ……。

『はい、少しよめるようになってきたので
次は少しむずかしいこどもむけのどうわなど
ちょうせんしてみたいかなと』

「あー、ユイは真面目だなー
オレは無理ー!!文字ずっと読んでるとなんでか眠くなんだよなー」

カラカラと笑うディーノさん……ならどうやっていつも多い多い言っている書類を片付けてるんだ。一枚処理する度に寝ていると、そういうことですか!?

「あ、そうだそうだ!今日はお勉強は止めにしてクズモチってヤツ食べねー?こないだのきな粉餅が絶品だったからなぁ。きな粉って甘くてウマいんだなーて感動しちまったよ!
餡子も捨てがたいけど、今日はきな粉だ!!」

あのう……きな粉が甘いのは一緒に入っている砂糖のせいなんだけど…というツッコミはディーノさんの夢を壊してしまいそうなので胸の奥底にしまって置く。あからさまにはしゃいでいる大人を尻目にきな粉餅を一緒に食べた時の事が思い出される。あの時はなかなか切れないお餅と格闘して、結局やっと食べ切った頃には顔と床中きな粉だらけにしたんだっけ……それを私が濡れタオルで顔を拭いてあげて…その前は桃の節句でもないのに雛あられを袋ごと持ち込んで、期待を裏切らないというか、袋を開ける時に見事に引っ繰り返してちまちま拾った霰を二人でポリポリ食べたっけ…こないだ食べたアレクさんの差し入れの御萩は………あれ、まともだったことなんてあったっけ、あれ。きな粉と黒蜜のハーモニーがうんたらかんたら言っているディーノさんは私から日本の知識を吸収していってる。殆ど和菓子とか殆ど如何でも良いことばっかり。それの味見に付き合っているのは私の日課になった。ディーノさんに日本の知識のあれこれを教えるのは私の仕事だ。何故か、日本古来のお菓子をホットコーヒーや紅茶と一緒に頂こうとするので、グリーンティーのほうが合いますよとアドバイスすると次から日本茶が出る様になった。疑いも無く私に前倣えの大人、イタリア人の日本通、日本大好きてどうなんだ?この目の前の年頃の青年が和菓子にハマってまーすって……………仕事との合間にはほとんど私の元に来るみたいだし(オジサマがたから聞いた)特定の女の人もいないみたいだ。まあ、あんなに抜けていてプレイボーイだったらびっくりだけど……イマイチ鈍感だし、ディーノさんらしいっちゃーらしいけど。
でもここはイタリアのはずなのに、そのドルチェも食べてないってどーいうことだ!ジェラートとか超美味しいと聞いているのに。ブレイクタイムといえばディーノさんが出て来るのは買い込んでいるお菓子で、可愛い苺ショートケーキとかフワフワミルクレープとか食べたのは数えるほど。いや、文句がいえる立場ではないことは分かっている。居候で食事にプラスおやつまでってどんだけBIPなんだって感じなのだが。でも、ちょっとは和菓子特有のベタベタした甘さではなくて洋菓子のふんわりとした甘さに甘酸っぱいスイーツとか時々は食べてみたいでしょう?
でもこんなごちゃごちゃ考えている癖に決して口には出さない私。なんだかんだで私とディーノさんの二人だけの騒がしいでも楽しい時間を無くしたくないからだろう。ディーノさんはいい加減に見えて肝心な時は本当に真剣だ。仕事の話となると顔付きが変わることを私はもう知っている。最近忙しいらしくて私と駄弁っている時も度々電話がかかってくる。電話片手に真剣な横顔は、とても恰好良くて頼もしく思えるけども、同時に疎外感を感じる。いつも私いるディーノさんではなくなってしまったみたい。実際、私なんかと一緒に居ていいの?電話の後に向けてくれる優しい笑顔にホッとするがそのあと直ぐ何処かへいってしまう。ずっと電話なんてかかって来なければいい。





[ 29/114 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -