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彼らの様子をぼけーと眺めていると、肩を掴まれてぐいっとディーノさんに真ん前に体をもってこられて、見事大人数の視線を一心に集めてしまう事となった。
き、気まずい…なんだこいつはって思ってるよ……絶対そうだよ……。

「で、今日集まってもらったのは、コイツを紹介したくてな!!」

軽快に言い放つディーノさんに部下さんたちはしんと聞き耳を立てる。

「コイツはユイタチバナ、ユイだ。
今日からオレの妹分になった!!皆よろしく頼む」

今日から!?い、妹!?ちょ、何だその話!!
まったく聞いてない話に後ろを慌てて振り返る。というか、ディーノさんそんなに妹欲しかったの!?

どういうことだ?と話している人もいれば、よろしくなーと私に気さくに声をかけてくれる人、よかったなボスと意味の分かんないこと言ってる人もいる。散りあえず収拾がついていない。


「お、おい嬢ちゃん!!あんた、あの時の嬢ちゃんじゃないのか?!」

騒ぎのどさくさにまぎれて一人の男性が人の間をかき分けて、私の目の前に現れた。
誰だこの人……。

「よかった、本当によかった!!
あれからどうなったか心配だったんだよ!でも、ああ、そうかボスのところにいたのか!!」

私の手を取って大の大人が涙目になって喜んでいる。お年召されているが、貫禄が有り身も小奇麗な色男さん。そんなに感動してもらっても、私にはこんな人など知らないんだけのだけどな……。
反応に困ってディーノさんを仰ぎ見ると、ざわめく人々の応対でこちらの様子に気が付いていない。あああ、もう、私はどうすればいいの!?




「は〜い、しつもーん」

呑気な、しかし妙にはっきりした声が響いて、騒がしかった辺りは静かになった。握られていた私の手は放され、目の前に居た人は私と距離をとってその声の方を見ていた。その声の主に目を向けると、赤毛のいかにもな軽い感じの若い人が軽く手を上げてディーノさんをダルそうな目で見ている。

「その子はもしかして噂の子〜?」

この話題に興味があるのかみんな話に聞き入っている。噂とは医療室で聞いた、噂のことだろうか。いつの間にかディーノさんの側に付いていたロマーリオさんは彼に話題に出た噂の説明をしているようだ。

「ユイは、親御さんが亡くなられて天涯孤独の身だ。
本来ならオレらがどうこうする話じゃないんだが、その事情が事情でな、保護下に置くことが最善だと判断した」



如何やら私はそういう設定になっているらしい。不信に繋がるようなことは極力言わないほうが好いだろうけど、私には両親がちゃんといる…。少し心がチクリと痛んだ。

「ユイには、必然的にココで生活して貰うことになる。
だからお前ら、オレの妹分をこれからよろしく頼むな」

ディーノさんの言葉に慌てて頭をぐばあと勢い良く下げ、視線の先の自分の爪先をジッと睨んで周りの反応を伺う。あ、今日はディーノさんからのプレゼントの赤いエナメル靴だったな、今日の服のアクセントになっていてやっぱりすごく可愛い……服も靴も結局値の張る物なんだろうな、ディーノさんは社長さん?みたいな身分なだけあってお金持ちだよねーこの屋敷も凄い広いしー、とどーでも言い事を考えて現実逃避してみたりする。再びの沈黙にダラダラと冷や汗が流れる。



不意に優しく取られた手に恐る恐る顔を上げると目の前には先程の人がいて、目が合うと和やかによろしく嬢ちゃんと微笑まれた。はっと周りを見渡すとそれを皮切りにあちこちから仲良くやろうやらボスを宜しくやら温かい声をかけられて、余りの大音量に圧倒される。
歓迎する雰囲気に胸が熱くなって不覚にも涙が出そうになった。いろいろ不安はあるけれど何とかやって行けそうだ。私は後ろを振り向くとディーノさんはほーらなと片目を瞑って得意そうに笑っている。貴方の部下、いや家族は本当に温かい人逹ですね。

私はこの人たちと本当の家族になれるかな。いや、かな、じゃなくて私はなりたい。


皆さんよろしくおねがいします、とスケッチブックに書きなぐり、も一度頭を深々と下げた。




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