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ディーノさんが立ち止まったのは一際大きい扉の前だった。長い廊下にいかにもな厳めしい茶色い扉はでんと存在感を示している。初めて来た場所に、なんだか大きいチョコレートみたいだなあこの扉と思ったのは、私の必死の現実逃避だ。

「此処だぜ」

やっぱり、少し怖い。初対面の人物に人は必ずしも友好的ではないと学んだのはここに来た初っ端のことだ。他人は良く知らないからこそ他人で、だからこそ自分と関わりのない人間には想像も働かせるのは難しいから傷つけることも平気で出来る。こんなことを考えてしまうのは私が薄情だからなのだろうか。

「見た目は…………あー……あれだが、気の良い奴らだぜ!」

自分のことのように嬉しそうに言うディーノさんの彼らへの信頼と情が分かる。でも、もし受け入れられなかったら私は如何なるんだろう?一時前までは、所詮ここの人逹にとって私は唯の怪しい侵入者だった。ディーノさんにわざわざお膳立てをしてもらって、そこまでしてもらえるほど、私は価値のある人間?そう思う自分自身が悔しくて、下唇を噛む。結局自分が怖いだけじゃないか。

「おい、どうした。やっぱり………今日はやめるか?」

少し考え込んでいたみたいだ、はっと我に帰るといつの間にディーノさんの整った顔が至近距離で私を覗きこんでいて、思わず後ずさってしまった。うわあ、びっくりした……。
顔を上げて彼を見ると、気遣わしげに私の様子を伺っている。

このまま尻込みしていても何も始まらない。覚悟を決めた私は扉の前に立ち、金色に光る重厚なノブを握る、そして、首を大袈裟に振った。
大きな手が包み込む様に私の手ごとノブを掴み、そのままゆっくり右回りに回した。はっとして後ろを振り返ると、その手の持ち主は直ぐ後ろで私の眼を見て小さく頷いてくれた。この人が付いてくれている。それだけで、心強く感じる。そして一緒に扉を勢いよく開け放ったのだった。


「よお!!おまえら!待たせたな!」


あんなに躊躇して開けた扉の向こう、そこには幾人もの男性ずらっと直立していた。
この人たちがディーノさんの大好きな部下さん達なんだな。彼が入った瞬間に騒がしさがぴたりと止む。殆どが風格のある良い年のおじ様達だけど、二十半ばぐらいだろう若い人もいて年齢もバラバラ、髪色背丈風貌もバラバラだ。唯一つ、全員ディーノさんと同じ漆黒のスーツを着ていて仲間だという一体感というものがひしひしと感じる。黒色を纏ったこれだけの人数の集合は威圧感というか迫力がある。て言うか、なぜ、女の人がいないんだろう。
沢山の好奇な眼が私に向けられているのがわかる。視線が、い、痛い。私はただ下を向いてディーノさんの後にもじもじと付いて行く。


「ボスの遅刻なんていつものことじゃねえか。
こちとら、二十分三十分待されてもそれぐらい計算に入れてるぜ。なーみんな!!」


一人が飛ばした言葉にハハハと全員が湧き、笑い声とそうだと同意する声が所々から上がる。


「おまえらなー!!」


ディーノさんはまいったなと困ったように頭をがしがし掻いているがどことなく嬉しそうだ。ディーノさんの少し情けない叫びにまた盛大な笑い声が部屋中に響いた。ちなみに私はディーノさん背中に隠れてその雰囲気に唯唯圧倒。
一連のやり取りから彼らのディーノさんへの好意が感じられる。和やかな雰囲気が部屋全体を包んでいた。




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