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「もう、そろそろですね」
『これはどう言う事ですか 私なんでこんな恥ずかしいかっこうを』
「……御気に召しませんでしたか。なかなかお似合いですよ
何処ぞのご令嬢のようです、馬子にも衣装とはこの事ですね」
褒めてませんよねそれ絶対ほめてませんよね、私にだってそのくらいはわかるぞ。
睨む私も何のそのアレクさんはふとドアの方を一瞥したのち、私の両肩をもってドアに追いやった。
「お迎えが来たようですよ」
お、おむかえ……?
不審に思いながらも厳めしい扉を眺めていると、どたどた誰かこっちに向かって来る足音がする。音が大きくなり一拍置いて、バンと勢い良く扉が開いた。そこにいらっしゃったのは………
「よお!!」
金糸の髪を掻き上げ直立するスーツ姿のディーノさんでした。
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久々にみる顔に、うん、何と言うか、ぐっとくる。初めてみたビシッと決まったスーツ姿は見惚れてしまうくらいカッコイイ。やっぱり顔が良いと何でも似合うなあ。スーツの黒が締まって見えて金髪、色白の肌の鮮やかさを引き立てている。緩く締められたネクタイ、少し乱れたワイシャツの襟が程良く気だるさを醸し出し、首の下、覗く肌が色っぽい、って私は変態か!でも、時めかないって言ったらやっぱり嘘だ。
そのディーノさんは少し息を乱していて、つかつか私の目の前にやってきた。空かさず、アレクさんが私の後ろからぬっと現われ壁時計を示した。
「ボス、約20分の遅刻ですよ。何か問題でも」
「わりーわりー!ちっと時間押しちまってよお………
おっ、着てくれたのか!!この服、オレが選んだんだぜー
かわいいだろー!!似合ってる似合ってる」
俺の見立て通りだと恥ずかしい格好の私を見てよしよしと満足そうに笑っている。少女趣味の服のチョイスはディーノさんだったのか……。なんと言うか、ベタというか…。
「おっと、もたもたしても居られねえ、行くぞ、ユイ」
行くって……何処に?私が?私の疑問もそのままにディーノさんは私の腕を掴んで部屋を飛び出してしまった。危うく、愛用のスケッチブックを取り落とすところだった。……これがなくては私は話も出来ない。
私は文字通り、赤い絨毯の上で引き摺られて無理矢理廊下を走らされている。廊下は果てが無いように長くて、まだ目の前の人の目的地には着かないようだ。どんだけ広いんだこのお屋敷。
暫く引き摺られていると、流石に足も疲れてきた。息もぜはぜは言っている。ディーノさんは結構な距離を来たと言うのに息一つ乱していないみたいだが、体力有り余る年頃の青年と運動には体育の授業でしか縁が無かった一女子学生、比べるほうがおかしい。とりあえず、この体力のたの字も持ち合わせていない哀れな少女にこの状況説明と……しばしの休憩を下さい……。足を踏ん張って無理矢理立ち止まったら、前を歩く急ぎ足の青年はやっとこちらのいっぱいいっぱいの様子に気付いて私にならって立ち止まってくれた。
「お、わるいわるい、ペース速かったな。大丈夫か?」
膝に手をつき、前屈みになって息を整える。辛うじて、こくこくと首を縦に振ることができた。私ちょっと死にそうかも………。
「唯でさえオレが遅れて、すげー待たせちまってるんだ。悪いが、もうちょっと気張ってくれ。もうすぐ其処だからサ」
待たせてるって、誰をですか。
ぽかんとした顔でその鳶色の透き通った瞳を見つめると、金髪クールの青年は軽く衝撃を受けた顔をして、あたふたと慌てだした。
「お、おい、聞いただろ、アレクから!」
勿論、首を激しく横に振ると、
「え、マジかよ……あいつ…」
あちゃーと恨めしそうな顔をして頭を抱えているディーノさん。いろいろ、お疲れ様です。
私は、何があるのかは知らない、でもまずは、あ、あの
『お久しぶりです』
をでかでかと大きく太く書いて見せる。両手で胸の前に持ち替えて、口でもう一度、ディーノさんお久しぶりです!!と伝えた。自然に頬が緩まってしまう私は最高に笑顔だった筈だ。答えてくれたディーノさんの笑顔がとびきりの物だったから。
「ああ………、そうだ、そうだった。本当に久しぶりだなあ、ユイ、元気にしてたか?」
ははっと嬉しそうな笑い声をあげて、小さい子どもにするように頭をがしがしと撫でられる。グジャグジャに乱れる髪の間から見える、向けられる温かい優しい眼差しに、本当にこの人と落ち着いて話すのは久しぶりだなと不覚にも目が少し熱くなった。どうやら、会えなくて寂しい、ちょっと泣きたくなってしまうほどには私はこの人のことを好きになっていたみたいだ。ずっと、ずっと、優しい手つきで私を撫でていて。
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