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どのくらい進んだんだのだろうか。最初勢いの良かった私の足は今はのろのろとしか動いてくれない。胸がやける様に痛い。
それにしても、本当にここは広い。どこまで続いているんだ。果てなんかないんじゃないのか。うす暗く、見渡すばかり木、木、木。
どっちに行けば戻れるかもわからない、遠ざかっているのか気付かずに逆戻りしているのか。完全に道に迷ったらしい。私は、悲鳴を上げる肺を酷使しながら、ぐるぐると同じことを考えていた。
酷いことを言った。鬱憤を端違いの彼にぶつけて、彼を傷つけた。追いかけてくる様子もなかったから、もう、呆れて見放されてしまったんだろうな…。
怒りをぶつけて冷静になった私は後悔の嵐だった。私は馬鹿だ。分かっていたはずなのに。なにも言わなかったのは彼の優しさだった。お人好しの彼のことだ、事実を伝えようかどうしようかすごく悩んだんだろうな、と、少し考えれば分かりそうなものだ。それなのに、私は、その優しさを苦悩を意固地になって、やけっぱちになって、捻くれて、悲観して。私こそ、悲劇のヒロイン気取りかと、失笑も良いところだ。

追いかけて来なかったということは、そういうことなんだろう、と思う。というか、追いかけて来てほしかったのか、私は。私は、なんて何と虫が良い奴なんだ。馬鹿で、子供で、感情的で、優しく差し出されていた手を自分から振り払う、何と滑稽なんだろう。

辺りも暗くなってきた。

足もこれ以上動かない。適当に木の元に座り足を抱えて蹲った。
冷たい。寂しい。私は、これから、どうしたら、いいんだろう。
考えても、考えても、答えは出ない。私の居場所なんか何処にもない。

不意に聞こえた草を踏むその音に、一瞬空耳かと思った。
そこに映った人影に私は不覚にも泣きそうになってしまう。

「ユイ?ああ、良かった、こんなところに居たのか」

ゆっくり近づいてくる足音。

「ほら、帰るぞ。こんなところにいたら、風邪をひく」
どこへ。何処へ帰ると言うのだろう。
私の問いに、ディーノさんは答えない。黙って私に手を差し伸べてくる。
あの屋敷へ、帰れ、と言うのかこの私に。

散々言いたい放題言った私を、受け入れてくれようとする、その手の持ち主は、差し詰め私の救世主なのか。

だから、そんな悲しそうな、慈しむようなない交ぜにになった顔しないで欲しい。
悲しいのは私の筈なんだから、一緒になって自分の事の様に心を痛めないで。貴方は、笑っている方が、一番素敵なんだから。

私は、差し出された手を、取ったのだ。




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