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それから携帯電話を取り出して誰かと連絡を取った後、私たちは部屋を出た。身に付けた服は部屋に用意してあった白いシンプルな長袖のワンピースに赤いエナメル靴。わざわざ私のために用意してくれたという。だからなんだ、だから如何した。この人は私に嘘を付いたんだ、絆されては駄目、駄目なんだ。

偶然か、赤い絨毯の敷き詰められた廊下を通る間、誰ともすれ違うことはなく、引き籠って体力の落ちた私の体は少し歩いただけでも息が上がってしまった。
ディーノさんはその様子を見かねて、前を意地になって進んでいく私を支えようと、後ろから私の肩に手を伸ばしたが、その度にその手をやんわりと振り払った。優しい素振りを見せるディーノさんに無性に苛立ちを感じた。触って欲しくない、優しくなんて心配なんてされたくない。振り払った時に見えたディーノさんの淋しそうな、悲しそうな顔に少し心が痛くなった。だから、私の為に、そんな顔、しないでよ。



広大な緑に、開放感を覚え、良い気分、だというのに私の後を付いてくる私の後ろの人。さっきまで頼りなさげだったくせに、私とは意地でも離れないつもりらしい。私と一メートルを付かず離れず追って来て、私はそれを突き放そうとする。後ろから忙しなく草を踏む音が聞こえる。

「お、おい、何かおこってる、のか………?」

何で付いてくるんだ。一時でもいい、放って置いて欲しい。一人になりたい、考える時間が欲しい。そうすれば、いつもの通りの私に戻れると思う。このままだと、自分で処理しなくてはならない様々な気持ちが、思いが、溢れだしてしまう。私はこれ以上、最低な人間になりたくない。
逃げる様に歩くスピードを上げる上げる。それでも足音は私に付いてくる。あああ、ついてくるな。維持になり足を動かしているので庭を楽しむどころではなくなっている。

「………っ!!おい!!!」

ついに痺れを切らしたのかどなり声とともに腕を掴まれた。苛立ちを含んだ鋭い声。
顔を反らして手を振り払おうと暴れる。

「こっち見ろよ!!」

意地になってこの人の顔を見ないように逸らしていると腕を強く握りこまれた。
痛みに顔を向けると、今までに見たことのないような怖い顔。いつもは優しく笑う顔に、眉間にしわが寄っていて苛立ちが支配している。整った顔だけに余計に迫力が有った。
少し怯みはしたが今の私は怒りの感情の方が強かった。負けじと鳶色の目を真っ直ぐに睨み返す。怒りに燃える私に絶句したディーノさんはそれでも掴む腕の力をより一層強くした。

「っっいい加減にしろ!!お前、今日どうしたんだ!!なにをそんなに怒ってる?
オレ、なんかしたか?!」

握られた手が痛い。痣ができそうなぐらいに力が入っている。どんなにやっても外れない。男と女の力の差を思い知り、私は歯がみした。この人はその気になれば、私なんか多分人捻りだ。

どうぞ、その怒って怒りのままに、私を如何とでもすればいい。これ以上何をされたって私は何も驚かない。寧ろ、私を殴ってくれ。もっと、酷いことをしてほしい。立ち上がれない位に、もう二度と希望を持てない様に。また、縋ってしまわぬように。

貴方は約束しましたよね、私に。返してくれるって、絶対、返してくれるって安心しろって。

うそつき。

言葉を綴る。音は無くとも、確実にそれは彼に届き、呆気に取られたように大きい目が更に大きく見開かれる。

さぞ滑稽だったでしょうね、不安がる私を見るのは。
あ、そうか、どうせ、私の話も信じていなかったんでしょう。可笑しなことを言う頭の変な奴だとでも思ったんでしょう。信じてたのに、私、ディーノさんの事、信じてたのに。

目が熱い。視界がぼやける。私、彼に何てこと、言っているんだろう。でも止まらない。

貴方なんか、だいきらいだ

握る力が一瞬緩まった。

私は走りだしていた。暗い暗い方へ。うっそうと茂る木々の向こうへ。誰もいないところへ。

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