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「―――え、なに、心当たりあるの?会ったことあるとか?」]

「………いや、会ったことはない。」


「含みのある言い方だな〜
俺が聞いたのは、今は使っていない、あの、奥様の部屋があったろ、そこに黒髪の少女が舞い降りたって。でも可笑しいんだよ、誰もそこまで姿を見たやつはいなかったらしい。普通気づくだろ誰かしら、カメラもついてるし。それでいろいろ騒いでるらし〜
で、そっちのネタは?」
「…………二週間ほど前、ボスから命令を受けた
日本人の身元の割り出しだ。


ユイ、タチバナだったか………」

「うおっと!!
いきなりビンゴじゃん………!!
おまえ、ボスから信頼されてるもんなー真面目だから。
して、結果は?」
「何もなしだった………そんな日本人はどこにも存在していなかった。」

え?

「ふ〜ん」
「同姓同名なら何人かいたがな。その時渡された写真とも年齢とも合致しなかった。」
「え〜変な話〜、噂は関係あるとして………
存在しない………?偽名でも名乗ったのかな?」
「分からない、だが、ボスが何か知っていることは確かだ」
「あ〜後でボスに聞きに行く?
お、よし、終わったぜ、動かしてみろ」
「ああ、すまない
………しかし、簡単に教えてくれるか……?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ!下手に隠し事のできない性格してるからなーボスは〜」
「まあ、お人よしだからなそこがあの人の良いところだ。」
「惚れてるね〜ふふっ
ほんじゃーまー行きますか、報告書出さないと〜」
「ああ」

こつこつと立ち去る靴の音が響く。

「ま、意外とすぐ見つかるかもね〜


ね、そこのあなた」

突然に鋭い視線を感じて心臓がどくりとなる。
聞いていたのはばれていたのか。

「此処で話してた俺達も悪いかもだけど、盗み聞きは良くないんじゃないかな〜?
それに、具合が悪いのならちゃんと寝ていた方がいいよ〜
それじゃ〜お大事に〜」

ばたんと扉が閉まった。
一気に胸を撫で下ろす。
怖かった、こわかった。
でも、それ以上に…私は、今の会話はなに…………?
ユイタチバナとは、私のこと、話の中の少女はきっと私だ。
ボス、とロマーリオさん達に呼ばれているから、ボスはディーノさんのことで、私の身元を捜してくれているのだろう。でも……見つからなかった?

私がいない、存在しない?そんなバカなこと………有るはずない。
だって私にはお父さんお母さんがいて、友達がいて、学校があって、そこが私の場所で、変えるべき場所で、戻れるはずで、夢に見るほど帰りたい場所で、もう少しで、帰れるはずなんだ。だって、ディーノさんはそう言っていたもの。間違いない。
でも、そんなのは、存在しない?
馬鹿にするな、そんなこと会ってたまるか!!

その場でうずくまり自分を頭を抱える。自分を守るように何も見ないように。
絶望が私を覆っていく。涙がぼとぼとと冷たい床に落ちてゆく。頭が痛い。信じたくない信じたくない。でも泣き叫ぶことも、嗚咽を出すことすらも出来ない。それがまたもどかしい。
あの今出て行った男の人が憎らしい。私に爆弾を投げつけて行ったあの人が。責任転嫁だと分かってはいるが、止められない。

最初からおかしかった。なぜ、自分の部屋から、気付いたら、こんなところに?普通であったらこんなこと起こりようがない、普通であったなら。ここが、日本で有ることすら疑わしい、だったら此処は何処か?異世界?分かるのは、ここは、私の愛していた所ではない。
ずっと変だと思っていたけど、おかしいと思っていたけれど考えない様にしていたことが一気に符合して辻褄が合って、考えるな考えるなと思っても私はその度に打ちのめされる。問うたびにロマーリオさんとディーノさんの困ったような曇った顔、悲しそうな顔。不思議に思っていたけど、もう何となく分かった。分かってしまった。何週間も、いや、もう一カ月になろうとしている。一か月、一か月だ!!馬鹿みたい、私は此処で何をしていんだ。部屋に引きこもって、誰か連れ出してくれるのをひたすら待って。ディーノさんは言葉を濁すだけで私を一向にここから出してはくれない、その理由を。私はディーノさんを盲信的に信じて考えようともしなかった。答えはとっくに出ていた。ヒントはそこかしこに沢山あった。
…………私にはとうに、変える場所なんてなかったんだ。

おとうさん、
おかあさん、
みんな、
会いたい、会いたいよ。


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