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『あはは、ありがとうございます

で、わたしに ようじがあるのでは?』 


見当違いに照れて、恥じらうディーノさんに辛うじての引き攣り笑いで話の軌道修正を図った。すいませんロマーリオさん、私にはどうすることもできませんでした。


「 そうだった!!
そう、今日、いい物がやっと届いたんだ
前々から取り寄せ頼んでたんだけどな、なかなか着かなくてよお。
何だと思う……?!絶対、ユイも気に入るぜ」

『わあーなんだろうなーきになりますー』

期待を込めて見つめてくる碧眼に、わざとらしく興味を持った風に尋ねる。落ち込まれると厄介だ。


しかし、何か背後に隠していると思ったが、その「良い物」を私のために持ってきてくれたのかな。一々反応面倒臭いなあと思ってしまった自分を叱りつける。
やはり自分に真っ直ぐ向かっている行為は嬉しくないはずがない。

では、とディーノさんが勿体ぶって背中から取り出したものは、

あんみつ

文字をそのまま読んだ。
私に手渡されたのは「あんみつ」とパッケージのついた黒いおわん形のプラスチックだった。透明な蓋越しに袋に入った透き通った寒天やらピンクと緑の牛皮やらが見える。日本のコンビニやスーパーで見かける、あの甘くて甘くて美味しい和菓子。

久方ぶりに目にした製品に、呆然とディーノさんを見返す。

「アンミツって言うんだろ、このデザート。
ロマーリオに聞いてから、日本のワガシっていうの食べて見たかったんだ!

今日は、一緒に食おうと思って持ってきたんだ」

二カッと私に向ける明るい笑顔。

「最近、ユイ、元気ねえしよ。
どーしたもんかと思ってな、いろいろ考えたんだけどよ………オレよくわからなくて。

こんな物しか用意できなかったんだけど、お前、甘いもん好きだったろ」

さっそく食おうぜと椅子を寄せて座り、袋を開け始めたので私もそれに倣う。
備え付きのプラスチックスプーンで餡を口に運ぶ。甘い。思わず頬が綻ぶ。おいしい。おいしい。おいしい。おいしい。うれしい。うれしい。この人の優しさがうれしい。
ふたくち。みくち。手が進む。人肌で暖まったのだろう生ぬるい寒天は、それでも黒蜜に絡まって甘酸っぱくて美味しかった。


ディーノさんはもくもくと食べ進める私を見て満足そうに笑っていた。
お約束に、透明なスプーンから寒天がぼとぼと落下しているのにも気づかずに、私を見ているんだ。
落としてますよ、と目の前の床の残骸を指すと、うわっとあわてた拍子に手からずるっと容器ごとあんみつをぶちまけてしまった。やると思った。
途端にさっきまで笑顔だった顔が、一口も食べていない、と歪む。

なんと期待を裏切らない人だ!コントのような彼にぶっと吹き出してしまった。
声が自由なら大笑いしていたところだろう。声を殺し、息だけで笑う。腹筋が痛い。

「はは、よかった、―元気出たみたいだな」

温かい眼差しで、安心したように、柔らかく微笑まれた。すっごくすっごく、これ以上ないような嬉しそうな笑顔で。それが一心に私に向けられている。
確かに、ここのところ、ごちゃごちゃ考えていた。悩んでいた。この人は私のちょっとした不安を気付いていてくれたのか。心配をしてくれていたのか。
どうして、この人はこんなに優しいんだろう、優しくしてくれるんだろう。

口に残る黒蜜の甘さが、全身に広がり、私を満たしていくようだった。
結局、私の手元に残った甘味物は二人で分けて食べた。凄く、美味しかった。



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