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「な、何してるんですか、学校の前で!」

「何って、待ち伏せ。君を待ってた」

程なくして、「仲良くして」の言葉が現実になった。ツナが出てくるのを校門で待っていたらしい彼女はヒラヒラと手を振って、ガードレールからピョンと降りると嬉しそうに寄って来た。何かプランがある訳じゃなく、会いたいから来てみた、と、随分な態度の翻しだが、先日の何かでツナは彼女に気に入られてしまったらしい。またツナが一人の時に当たるのは運が良いのか、どちらにせよツナには都合がいい。人に見られる前に、学校から出来るだけ離れたい。口実として、ツナの家に移動しないかと誘ったら、喜んでついて来た。

先週のランボの行方不明事件は、結局次の日にはひょっこり憎たらしい顔を拝むことになり、ランボはまたリボーンに喧嘩を打って帰り打ちにあっていた。彼女の事を聞いてみると、「ユイはランボさんの愛人らもんねー」名前はユイと言うらしいことがわかった。

「あの、……ユイさん?」

名前をこわごわ呼んでみると、隣を歩いていた彼女は一瞬キョトンとした顔をして、ぱあと顔を綻ばせた。

「名前、知っててくれたんだ」

「ら、ランボから聞いて…」

「ランボくん」

更に顔が綻ぶ。

「ごめんね、自己紹介もしないで、ツナくん…あ、勝手に呼んじゃってるけど、ツナくんで大丈夫だよね…?」

ここで初めてお互いのフルネームを知ることになった。ユイは予想どおり並盛中学近郊の並盛高校に通う高校生で親の事情で転校して来て数ヶ月、まだ、並盛町の地理には疎いよう。ツナの家のある住宅街方面は全く未知であるそう。「今度、良かったらこの町のこと、色々教えてくれないかな?」ツナに頼まなくても、自分の同級生やクラスメイト友達、適任者は色々いるだろうに。急速に距離を縮められて対処が追い付かないのだ。「ツナくんがいい、ダメかな」兎も角、敵意が無ければ、人懐っこくなるたちらしい。でも、年の功か、そんなに離れていない筈なのに何だか物腰が落ち着いている。上目で様子をチラチラ伺う。目があったら、にっこり微笑まれた。
大手スーパーに寄り道し、
「ランボ君って、何が好きなんだろう?何時も、あげてるから飴とかでもいいのかな?」
籠にスナック、チョコレート、クッキー目につく物を入れて行く。あれもこれもと手にとって見比べて吟味するユイは楽しそうだった。勧められるまま、ツナの好みのスナック菓子も買って貰うことになってしまって、ツナはいたく感動した。ツナの周りは変わった人ばかりで、ツナに気を使ってくれる人は余りいない。

沢田宅に着いたとき台所から顔を出した奈々は突然の来客にも動じずユイを歓迎した。そして、リビングに居たのは。

「お邪魔してます、若きボンゴレ」

牛がらのTシャツに黒い天然パーマの伊達男がパンケーキを目の前にフォーク片手にくつろいでる姿だった。

「大人ランボ!」

「子供のオレが10年目バズーカを使ってしまったようです」

大人ランボは「奈々さんの作るおやつはやはり美味です」などと呑気に言っている。

後ろのユイはツナの叫びを聞いて後ろからひょこと顔を覗かせた。

「ツナ君、この方、ツナ君のお兄さん?
それにしては日本人離れしてるような…」

「ちちち違いますよ、こいつは、なんていうか……!」

「これは、これは…またお会い出来るとは」

ランボはユイの姿を見るなり、動かしていた口止め、目を大きく見開いた。

「若きユイさん、お会いしたかった!」

ランボは興奮を隠せない様子でユイの両手を取った。ユイは硬直している。構わず、ランボはユイの手の甲に徐にキスを落とした。

「ぎゃーー!!」

「えっ」

「若きユイさん、優しいあなたは小さなオレの憧れでした。しかし、今のオレにはあなたはとても遠く……」

「小さ…?」

「や、やめろよランボ!
ユイさん困ってるから」

気遅れていたツナがようやく二人を離すが、ランボは降参と両手を上げ、ユイは気が良いと言っても流石に困惑の様子。

「面白い方だね、ランボくんのご親戚?」

ははは、とツナはカラ笑で頭を掻いた。
ユイにこれがあなたの会いたがっていたランボ本人ですよと言っても信じて貰えないだろう。

「『若きユイさん』…?」

ツナは聞き捨てならない言葉を聞いた。

「ランボ、『若き』って……」

「ああ、若きボンゴレ。
あなたも可憐な花に焦がれる一人でしたね。オレが言えるのは、」

しかし、言葉の途中、
爆発音とともに紫煙が部屋を満たし、大きな男の影は煙とともに霧散した。
後に残ったのはイスにちょこんと座る五歳児のランボだった。熟睡中の彼は後ろに寄りかかってふなをこいている。

「ランボ君……?
どういうこと、さっきの人は…?」

「遅いご帰宅だな、ツナ。
オレとの約束を破るなんて、いい度胸だぞ」

ユイははっと部屋の奥に目を移した。続けてツナもそれに倣う。
ツナに向けた不遜な物言い。
ソファの背もたれに腰掛け、銃を構えた赤ん坊はツナの家庭教師、リボーン。
リボーンは真っ青になるツナに、どことなく楽しそうにいつもの銃を向けていた。

「リボーン!
居るならいるって言えよ!
ごめんなさい、ユイさん、こいつマフィアごっこにハマってて」

何時もの言い訳をして、ユイの方を振り向く。しかし、ユイはツナの言い分には無関心で、熱心にリボーンの方を見つめていた。そんなにリボーンが珍しいのか。確かにリボーンは「普通とは違う」が、リボーンの格好も振る舞いも小さい子のお遊びとして大体真剣に取られない。ツナの周りがいい例だ。
異様な反応なのはユイだけではなかった。ユイをリボーンもそのくりくりした眼で見つめ返す。

「アルコ、バレーノ…リボーン」

ユイは何かをつぶやく。微かに語尾が震えていて、ツナには良く聞き取れなかった。

「お前」

「アナタが居るということは、……じゃあ、ツナ君は…」

腕がだらんと下がる。

「ああ、そういうこと」

「あの、ユイさん?」

「ばいばい、
………………『ボンゴレ十代目』」

「ユイさん?!ちょっと待っ…」

ツナの引き留めの言葉にも聞く耳持たず、ユイはカバンを掴んで玄関に消えた。遅れてドアの閉まる音がする。


「ツナ、アイツと何処であった」

「何処って、偶然っていうか、ランボが…

ユイさん、帰っちゃったよ。
おまえ、何したんだよ?!」

「うるせぇ、ダメツナ」

「いでっ」

「オレは知らねぇ、九代目の預かり物だ」


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