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ページが最後に差し掛かり、もう何も無いだろうとページを指ではじく。が、ぐっと固い手応えで捲る音が止まる。
糊付けされているらしく、最後の何ページかの中が見えない。
爪を突っ込んで無理やり外の糊代部分をベリベリベリと剥がすと、厚みのあるものが大量に膝におちた。
ひっくりかえった大量の紙切れの一枚に、自分が、いた。
それを広い上げる。
一枚どころではなかった。
いらなくなったカルテの用紙、プリント、チラシの裏。
貼り合わせるまで念入りに封印してあった物。
捨てるに捨てられなかった、絵。
拾う手が震える。
手がとまり、それは、何処かのスケッチブックから切り取った紙で、見る限り視線がこちら側に投げかけられているのはそれだけ。
満面の笑みで画面の向こうに笑いかけている。
その右下の隅、小さく小さく、書き込まれた文字。
『ディーノさん ーーーー』
目の裏に何かがこみ上げて、決壊した。
真っ直ぐな思慕を向けてくる言葉が。笑顔が。
「ユイ‥‥!!」
本当に、もう居ないのだ。
自分はどれだけの事してやれただろうか。
何を見て、何を思って、どんな気持ちで、
深い、喪失感。
与えられた責務と責任に追われる日々に、あれが、どれだけ救いになっていたか。
無くして、初めて、その重みを知る。
もっと大切にすればよかった、それこそ真綿に包むように、甘やかして。
何処かで息災に、など願えない。
誰が納得出来るが、こんな、こんな、理不尽な別れなど。
何度でも、何度でも。もしかしたら。
『何ですか、ディーノさん』
慟哭は酷くなる。
どんなに嘆こうが、あの優しい存在は戻っては来ないのだ。
自分のもとには決して。
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