12

怪我はあるがそれほど大事ないと思われた私は、次の日から高熱に悩まされた。
突然の怪我に私の体がついていってないんだとぼーとする私にアレクさんが教えてくれて、私の看病に付いてくれている。
怪我でも熱って出るものなのかと体とは不思議だなと思う。とにかく暑いのか寒いのか良く分からない。とにかくだるいので体を動かす元気はない。物を食べるなんて以ての外で、私の腕には点滴のチューブが付けられている。注射も普段はしり込みしてしまうのに、躊躇する余裕も無く、アレクさんの処置も手早いので、別に苦ではなかった。熱は一日たっても下がらず、何回か昼の明るさと夜の暗さを見た気がする。夜中に寝苦しさに何度も目が覚めるが、そのたびにアレクさんが体温を測り、血液を採取して様子を聞いてくる。当然声が出ないので少し首を横に動かすだけで終わり、それだけで酷く疲れて、それから目をつぶるとすとんとねむりに落ちてしまう。夢は全く見ない。でも、いろいろ考えなくても良いのは有り難かった。今は、何も考えたくない。



何回、朝と夜を繰り返したか分からない頃、また私はふと目を覚ました。
近くで誰かの気配がする。ああ、松山さんがまた私の世話を焼いてくれているんだ、と勝手に納得する。それにしても彼は何時睡眠をとっているのか甚だ疑問だ。いつも、何時でも、私が起きたことに直ぐに気がつく。

こちらをじっと見ている視線が瞼の上からでも感じられた。瞼からは眩しいと感じる明るさは感じないし、辺りは静かなので、今は夜中のようだと目算する。
体はべたべたして暑苦しいが、目を開けるのもまだ億劫なので、じっとそのまま体を弛緩させていた。
すると前髪をさらさらとなぜられた感触がした。
そのまま頭もやさしい手つきでなでられる。
ん、何?と私は疑問符を浮かべる。

アレクさんはそんなことはしない。彼はマメに世話は焼いてくれるが、あくまでその動きは事務的で、テキパキと卒がない。では誰だろう。


不思議に思って目を開けると、金髪爽やか青年、ディーノさんがやさしい目でこちらを見ていた。

「……よう」

軽く挨拶をされて、私は少し笑みでもって返事を返す。でぃーのさんだ、嬉しいな。

「熱が、出たらしいが………汗が凄いな。喉乾いただろ、水、飲むか?」

傍らに置いてあった水差しを取ろうとするディーノさんに顔を背け、拒否を示した。今は飲み下すその行為すら億劫だ。

「しばらく見舞いにも来れないでゴメンな……。
なにぶんいろいろ忙しくてな、暇がなかったんだ。―って言い訳がましいか」

私の額を撫でながら、ディーノさんはハハッと笑う。

「熱も大分下がったみたいだな。思ったよりも落ち着いてて安心した」

なでられる頭が気持よく、すごく落ち着く。だんだん眠くなってきた。

「おっと、悪いがまだ寝るなよ。アレク、呼んでくるから。待ってろ」

ディーノさんは私の頭から手を放し、椅子から腰を上げてしまった。
あ、行ってしまう。

離れた掌に寂しさを感じ、思わず、目の前のパーカーの裾を腕を伸ばして掴む。
ディーノさんは、ビクッとして振り返った。

そのまま手をぎゅっと握りこむ。

「――っと、ど、どうした!つらいのか?」

首を振る。

「怪我が痛いのか!?
他にまだ痛むところがあるのか!?」

首を振る。

「………………怖いのか。行って欲しくねーんだな。
わかった。」

ディーノさんをじっと見つめる。寂しいから、そばに居てほしいだなんて、小さな子供のようだと思う。
多少の羞恥心はあったが、この人には既に初対面から泣き顔まで見られてしまっているし、今さらだ。そして今は、あの時に自分と一緒に居てくれた、私を抱いてくれた、温かな温もりが欲しかった。今の私はおまりにも傷心で、このお人好しな青年に甘えてしまおう、と何故だか素直にそう思う。

ディーノさんは再び腰を下ろし、私の頭をなで始めた。
この、温かさは、これは、父の体温の温かさだ、と思った。
ふと、遠い記憶の中の父の姿を思い出す。今は、流石にそんなことは舌貰ってないけど、父は私が風邪をひいて熱を出すと、心配そうに熱で火照った額を私を落ち着かせるようになで続けてくれた。そんな、不器用で、優しい父が私は大好きだった。

ディーノさんに感じる温かさは、父の物に似ている。柔らかい暖かい雰囲気がそっくり。…お父さんは眼鏡で肥っていて、こんなに男前ではないけど。

「元気になったら、必ず親御さんの元に返してやる。約束だ。何も、心配すんな」



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