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硬質の鉄の塊を確かめる様に触って、出っ張りを押して、にびいろの歯を出したりしまったり慣れた動作を繰り返す。
手の中でまるで脈動するように青白い光を発行し始め、我が目を疑った。
『ムム、やっとつながったみたいだね』
しゃ、しゃべった!
『君の目を少し借りさせてもらうよ』
ぽん、という間の抜ける効果音のあと、ナイフは青く丸い発光物体に姿を変えた。
実像は徐々に形を変え、グニャグニャと収縮を繰り返し濃淡を形成する。
可視出来るようになり目を凝らすと小さい体を包む目深のローブに覗くぷにぷにのほっぺに逆三角のペイント。
「……………マーモンちゃん?」
ローブの物体は小さな口を少し得意そうに歪める。マーモンちゃんのお得意の仕草だ。
無機物がマーモンちゃんになった!変なのは、私の手の中のマーモンちゃんが実物よりも小さく、そして、電波の悪いテレビの砂嵐が混じるみたいに粒子が離れては消えるを繰り返してるのだ。パチクリ瞬きを繰り返す、消えないから私の妄想でもない。集中し過ぎたせいか米神辺りがずきん、と痛む。
ミニマーモンちゃんは自分の姿を省みて、んと唸った。
『これでも、僕が影響を与えられるのはこの程度みたいだね』
「なんで、マーモンちゃん?ここに居るの……」
『一応説明して置くと、正確には僕はここには居ない。君が手に握っているガラクタが僕の媒体になっているんだよ』
確かに言われて触ろうとしたけどどうも手応えがなく空を掴む。
『無駄だよ。鬱陶しいからやめてくれる』
マーモンちゃんの声がするとニセマーモンちゃんの口が動く。一瞬激しく構成する粒子が荒れて、ずぐんとこめかみが締め付けられたような鈍痛が酷くなった。
『その様子だと、長く話している時間は無さそうだね』
マーモンちゃんは事も無げに言ったが、画像がまたぶれた。
「僕が何故、君の前に現れたかと言うと、依頼されたんだよね、スクアーロに』
スクアーロ、さん?なんで、スクアーロさんが……耐えかねて額を押さえ、
声を聞き取ろうとすればする程焦点を合わせようとするほど偏頭痛は酷くなる。頭痛が尋常じゃなくなってきた。耳鳴りが酷く、頭蓋骨のなかで大鐘でも打ちならしてるみたいだ。
『…きみがキャバッ………に…、』
「まって、マーモンちゃん聞こえない」
『スクアーロが……つれ…こい……じ……どう………ぼ………、ム………、なぜ…………………』
音にノイズが入り、話の内容がまるで聞こえない。私の頭の中で何かが鬩ぎ合って私の中をぐちゃぐちゃにする。
脳みそを掻き回され、耳鳴りが更に酷くなる。何かが私の中の何かをくい破ろうとしている。
ああああもう、やめて、私に入って来ないで!私の中をひっかき回さないで!!
呼吸も絶え絶えに、もう駄目かもしれないと覚悟したとき、バツン、と何処かのスイッチが切れた。緊張していた体が弛緩して、やっと深く新しい空気を取り入れる事が出来た。
一息ついて、投げ出してしまったガラクタを拾い上げるが、
「マーモン、ちゃん……?」
手の中の刃物は刃物以外の何物でもなく、発行してもいないし問いかけにも答えない。
「マーモンちゃん!マーモンちゃん!」
呼び続けても何も起こらない。結局何だったのだろう。嘘見たいに頭を掻き乱される感覚はなくってる。スクアーロさんが、どうしたって?
友人への挨拶も懐かしさを感じる前に連絡を絶たれてしまった。同時にきた一瞬の希望と消失、落差に茫然自失になった。何故こんな大打撃を受けているのか、自分でもわからないけど、お前なんか要らないと見捨てられた様な錯覚に囚われた。さっきの言葉の交わしたマーモンちゃんが現実だったがの判断もつかないのに胸が痛む。一気に負の感情が降ってきて立っていられなくなった。
些細な切っ掛けで其れに呼応してグラグラ揺れるくらい、自身が疲れていたのだと自覚した。
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