3


極めつけは無邪気で邪気のかけらの無い満面の笑み。バッサリ切り捨てるとグイードさんは信じられない様な物を見る様な目で此方を凝視していた。

其れはそうだろう。私は何時も借りて来た猫みたいに大人しくて、食事のマナー違反なんて絶対しない。兼のある声色で毒を吐くなどもってのほか、いつもニコニコ、いつもいい子。
それきり口を噤んで、私の租借する汚い音だけがスピードアップを始める。

スケープゴートが必要だったのだと後にしる。
私が誰と何してようと、私が散々審問された成り行きで介抱した強面の男の実際がどうであっても関係なかった。ヤクザでもごろつきでも彼らが睨んだマフィアでも。パフォーマンス、茶番。不自由ない生活は罪悪感の為せる温情か、それとも嫌がらせなのか。
だったら、存分にその特権を振りかざしてやろうと思ったんだ。ケーキにパフェにジュース。美味しい物を食べて何がいけない。グイードさんは私の鷹揚な振舞いが訳が分からない人が変わったと形容しているけど、違う。繕う事さえ億劫になってしまった。何もかもがバカらしい。
優先順位の問題で、最初に切り捨てられた。懇願も虚しく問題が起こったら直ぐに外に追い出されて、都合でまた連れ戻されて。紙屑みたいに私の存在は軽い。


「俺は鈍いのだろうか」

「え?」

私の食いっぷりを遠い目で眺めていた男が突然とつり呟いた。私は食べるのを一旦中断してグイードさんを見る。グイードさんは目の前のちっとも進んでいないトマトスープの面に暗い顔を移して、


「俺は他人の機微に鈍感な粗忽者らしい。
いつも、カルロスにその様なことを言われていた。あいつのこそ気持ちを逆なでして、茶化してばかりだ‥‥‥‥そう思ってたのだがな」

カルロスさんの名前が出て来て、陽気で能天気なカルロさんの顔が浮かぶ。カルロさんに会っていないなあ。お屋敷の中には居ないみたいだし、お仕事かな。前にお店の住み込みの時、会いに来てくれたカルロさん。らしく無い真面目な顔で「素直にならないと後悔する」だったか。分かるようなわかんない様な忠告置いてってくれたっけ。
喧嘩でもしたのだろうかと思った。自分をおとしめる発言は気弱になっているか、後ろめたい事があるかのどちらかに起因している場合が多い。この年中漫才している様な親友同士でも喧嘩する事があるのか、と驚いた。喧嘩はするだろうが、思い悩むほど深刻な溝なんて、一緒に居過ぎる彼らには無縁だと思っていたんだ。

「グイードさんとカルロさんはずっと一緒に居るイメージあります。仲いいですよね、幼馴染でしたっけ」

「アレを仲が良いって一言に言っていい物か………そうか、でも、カルロスとはもう、20年来の腐れ縁だな。同じ孤児院出身なんだ。言ってなかったか?」

聞きたいと言ったら快く話してくれた、グイードさんとカルロスさんの物語りはやっぱりカルロさんの名前が出てくる頻度がすごく多くって、この人たちは私の想像の出来ないような長い時間を共有して、一緒に苦しいことも悲しいことも勿論喜びだっておんなじだったんじゃないかな。カルロさんが、グイードさんをおちょくってからかうのもグイードさんが大好きな証拠で、相好崩してあのクソッタレが、あの馬鹿がとか文句混じりで言葉ベタが嘘だと思うくらいにグイードさんが楽しそうなのもそうだ。羨ましい気持ちもさることながら、ちりちりと心が焼けつく様だった。なんで私には、誰も居ないんだろうと。誰か一人でも私を庇ってくれる人。

「思えば、いつも決まって俺の隣を歩いてたんだな、アイツは」

しげしげとグイードさんは呟き、明るい声でそう言えば、と過去の話に夢中になってタイムトリップしていた目が私を向いた。

「カルロスは君のことを可愛いといつも褒めていたな」

からかわれて遊ばれておちょくられてただけの様に感じましたけどね、と恨み節を込めるとグイードさんは笑った。



[ 103/114 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -