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泣き崩れて、良かった良かったと私の帰りを喜んでいるその人を目の当たりにして。

ニタニタと気持ち悪い笑いだけが浮かんで。それを隠すために俯いて体を小刻みに震わせていると、泣いていると誤解された。掌で自分の醜態を隠して…………別にばれても、何でもいいや。収まりきれる型に無理やり押し込む、自分の思考で出来る範疇でしか理解しようとしない。

それを訝しげに傍観している一つの視線にも、私は、気が付いていた。








「先刻のアレは、なんだ」

来ると思った。

素知らぬ顔で大口開けて、チーズのとろけるオムライスにぱくついた。口に含めば直ぐに溶けて消える。食材をふんだんに使った料理に飢えている。普段食べ慣れていた食事が何倍も美味しく感じた。それぐらいが悪あがきに伴った私の後遺症。それを有り難く甘受する。

探る様に見ていた男が私の向かいに席をとった。

「美味いか」

「ええ、美味しいですよ。絶品です。
やっぱりマリアさんのランチは最高だなあ」

このほくほくのケチャップライスとまっさらな黄色の膜を崩し、チーズを絡めてスプーンで掬う。私の大好物。
マリアさんはやっぱり天才だ。こんな美味しい物を此の世に生み出せるなんて、魔法使いみたいだ。マリアさんは変わらず、少し寂れたこの食堂で腕をふるって皆の舌を楽しませていた。彼女いわく、少しばかり痩せてしまった私を肥え太らせることが目下の目標らしい。私が自由に食事を食せるのも難しい顔しているグイードさんのおかげであり、私の保護、及び監視を任ぜられている。初めにそう宣言され、仲良しこよしとは行かない私たちにはまともな会話は皆無だった、はずだった。


「だったら………」

「はあい〜、デザートの苺のスフレ!好きでしょう?」

「わあ、ありがとうございます!」


食べ終わる前に次が出て来て、子供みたいに目を輝かせまた一口ほおばった。
やっぱ、めっちゃうまい。この至福の時間にどうでもいー話で水刺さないでほしいんですけど。一旦マリアさんが来た事で引っ込めた言葉をはたまたグイードさんが真正面からぶつけてくる。今度は少々小声だ。周りに配慮する気は有るらしい。呑気な私に憤っているのは伝わってくる。


「俺には、君の事がさっぱり分からない。君は何故そう平然と振舞える。
本当に自分の立場が分かっているのか?」


「わかっていますよ、理解しすぎてるほど」


「いや、分かっていない。これでは回りを更に呷るだけだぞ。」


「ばっておなふぁふぁふいてるんでふ」


「口にものを入れて喋るものではない、行儀がわるい。」


相変わらず律儀なひとだなあ。
言いつけどおりにゆっくり口の中を嚥下してスプーンを態と大きな音をさせて食器におく。オムライスの皿はきれいさっぱり空になっていた。

次はフォークに持ち替えて、ケーキをつつく。針のむしろに立たされている様な疑心暗鬼と疑惑と同情と、が混ざった視線は纏わり続いていた。

それらを軽く受け流し、鷹揚にシルバーの先をグイードさんに向ける。

「聞く耳も持たない人間の為に、部屋に引きこもってビクビクしながらご機嫌うかがいしろって。
冗談じゃないですよ。それで何かの解決になるのなら幾らでも頭下げてやりますけどね」


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