12
痛い。
痛い。胸が張り裂けそうに痛いよ、ディーノさん。
両手が使えないので芋虫状態で去ろうとする後ろ姿を見失わないように顎だけは上に上げて、やるせなくて、悲しくって悲しくって、涙がでた。
こんなの間違いだ、うそだよ、悪いゆめを見ているんだ、
私を見て、お願いディーノさん、こっちむいて
「助けて………助けて………………」
私のヒーロー、始めて会ったあの時みたいに、
あれからあなたは私の唯一のヒーローなんだから、
悲痛な声で声を絞り出し、懸命に名前を呼んだ。
信じていたから。共に過ごした時間で育んだ絆は不変だと信じていたから。
後ろ姿の足取りが止まる。それは幻かと思われるほど一瞬の躊躇で、後は迷うことなきかっこたる足取りで私を置き去りにして遠ざかっていく。
同情の目を向けられながら、何と声を掛けられたが、何も意識下に入ってこない。
ただ、絶望的なこの状況、置いていかれた、その事実がショックで衝撃的過ぎて事実を其の侭に理解しようとすることを拒絶している。私に出来る精一杯の防御反応だった。
ついぞ、ディーノさんは私のことを一度も見ようとはしなかった。キャバッローネの跳ね馬だった。こんなの、ディーノさんじゃない。私のディーノさんじゃない。
長い「家出」は終わった。
私は帰って来た、何度も焦がれた「私の家」へ
「裏切り者」の烙印をおされて。
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