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是が非もなく反射的に駆け寄ろうとする素直な両脚にまったを掛ける。ちょっとの所躊躇したら動けなくなった。なんで、目の前にいるのに。
矜恃が都合のよい状況に甘んじることを許さない。
私はまだ許せないんだと。私の感情は彼の全く預かり知らない領域にある。
いい典型だ。
どうでもいい事で傷付いて、取り敢えず与えた側は全く覚えがないかすぐ忘れてしまう。だけど受者はいつ迄もいつ迄も覚えている。
「ユイ‥こいつらと知り合いなのか?いったいどういうことなんだよ…」
「ユアン、みんなを連れて外に行っていなさい」
そうだ。私が思慮しなくちゃいけないのは、自分の鬱屈に対しての自問自答じゃない。
「それは出来ない相談だ、
まだ用が終わってないんでな」
跳ね馬は一人に目配せをして、子供たちの退路を塞いでしまった。
すかさず、先頭に立つユアンは得意の負けん気で睨んだが、それだけだった。気の進まない様子で従ったおじさまはいわれなき感情を向けられて眉を下げて困っている。
どうしたって鉄の塊は路地裏ぐらしの孤児には未知でそれ故恐怖の対象だ。なのにユアンは小さな体でみんなを守ろうと必死だ。リリや他の子たちも初めての想像を絶する恐怖だろう。
敵わないと知っててなんで抗おうとするんだろう。逃げてしまえばいいのに。君は要らない子じゃない、立派な一人の勇敢な男だ。私なんかと全然違う。もう、撫でまわしてこねくり回してチューしたい。
こんな小さな子たちが頑張っているのに、そうだよね、私がしっかりしなくてどうするの。
良く私も理由は飲み込めないけれども、多分用が有るのは私。この子たちを助けられるのも私。それに、何か行き違いが有るんだ。もしかしなくても、あの、男。
そう、ユアンの言うとおり忽然と姿を消してしまったあの強面の男を彼らは追って来たと考えるなら、何も不自然は無い。でも違うんだよ、あの人は何もしていない。だた、巻き込まれてしまった一人にすぎない。話して分かってくれるとは思えないけど、私たちが無関係と分かれば何事もなく立ち去ってくれるだろう。
あの子たちが力をくれた。私も動揺を抑え込み、無表情で抗議の態度で相手を睨む。
「止めさせて下さい。子供たちが怖がっています。
話なら……」
直立不動で譲らない私に一瞬厳しい渋面をくれたが、それも瞬き一つ。僅かに目を伏せて、次には振り切るように関心は私の両隣の「彼等」に移っていた。
「今の内に拘束しろ。
流石に子供たちを置いては逃げないだろう」
……………え?
戸惑いを見せはしたが、私は彼らに両手首を取られた。体のラインをなぞられ、ポケットからは安いライター、予備のナイフ、小銭がじゃらじゃら地面に落とされる。
「その身柄、キャバッローネが預かる。
やっと見つけた糸口だ。さっさと立たせろ、」
後ろ手で引き摺り起されて、頭はパニックで如何にかなりそうだった。認めたく無くて必死にディーノさんを見るけれども、もう二度と、私を見てくれない。見ようともしてくれない。
どういう事、意味分かんない、意味分かんない意味分かんない。
「まって、まって、まって!!」
「ボス」
「連れていけ」
「悪いな、嬢ちゃん」
引き離されそうになって必死に抵抗した。持ち上げられそうになっていた所から落下して、強かにお腹がわを石畳に打ち付けた。
「ユイをはなせ!」
「ユアン!!」
「ユイ、何処にもつれてくな!!」
「ユアン……」
「あいつが来てからユイ変だったんだ!
あいつのせいなんでしょ?あいつが来たから!」
「ユアン、黙りなさい、これ以上何を言ってもだめ!」
余計な事を言ったら、ユアンまで巻き込んでしまう。子供たちが泣いてる。私を呼んでる。行かないで、お姉ちゃんを連れて行かないで、と泣いてる。
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