10



「辞めて下さい、なんて事を!!怯えているじゃないですか、子供たちが何をしたって言うんですか!離して下さい!今すぐ!!」

その人は、困った顔をしたが銃は降ろさない。

「って言ってもなあ‥‥俺だってこんな事したかねぇよ、子供に銃を向けるなんてなあ‥でもなあ‥‥」

「でもも、何もありますか!」

「人質ってことだ、悪いようにはしねぇから、少し大人しくしててくれ、
頼むから、嬢ちゃん
子供に鉛玉打ち込む様な真似はぜったいしねえ、神に誓ってだ、出来れば、嬢ちゃんにもな」

私が睨むと気まず気に視線を逸らした。
私は人垣を、部屋の回りに立ち塞がる十余人を一人ずつ、順番に眺めていった。どれもが、浮かない顔で、私と眼差しがかち合うと慌てて目を反らす。

「大丈夫よ、誤解だから、これは、何かの間違いだから‥.」

「お姉ちゃん、こわいよお‥‥‥」

辛うじて泣くのを我慢していたリリがぐすりだす。伝染病のように子供たちの間に広がっていった。
どうして私と関わったばっかりに、こんなしなくて良い思いをさせて、私は災厄を撒き散らす病原菌だ、汚らわしい。
そして、あの男はやっぱりこの場所から姿を消していたのだった。逃げたのだろうか。ただこの状況を知っておめおめとあの人が一人保身に逃げ出す方が信じられない。信頼していた。一緒に生活を共にした、この短い一ヶ月にも多分満たない。
やっぱり、もう会えないのか。置いて行かれたのか。この状況もあいまって何だか泣けて来る。何でもっと踏み込もうとしなかったのだろう、偽善だと嘯き平気な振りしてちゃっかり愛着は持っていたのだから。
もう、あなたを思い出せる。あなたは確かに私と過ごした時間、あなたは、あなたの名前は‥‥‥

「おい、ちと、乱暴過ぎやしねぇか?俺、こんな事したくねぇよ‥‥まだそう決まった訳でもねぇし」

「だよなあ‥‥嬢ちゃん、ごめんな‥顔に傷が出来ちまった‥‥立てるか?」

私の体は丁重に助け起こされて、小さな子がさせるように体についた砂を払ってくれた。銃は降ろされ、和やかな私の愛した内輪の柔らかい笑顔が帰ってきた。
私も気の許した笑みでもう許したよの証を見せると、あちらさんもほうと気やすい雰囲気に変わり、おう嬢ちゃん久しぶり、元気に飯食ってたか、切ったねえ格好だなあと、小突かれ揉みくちゃにされた。今度はそれにどうなってるか全然状況が飲み込めない子供たちはあんぐりだ。

「あの、皆さん、これはどう言ったことですか?なにが‥」

「それは‥」

「オレの指示だ」

説明を求めた私に告げようとした言葉を遮る新参者の一声があり、ゆっくり私は奥のほうを向いた。

人垣が割れ、声はその奥からだった。

悠然とした足並みで、上に立つものだけが持つにじみ出る確固たる自身、確信

影から現れる癖の有る金髪、落ち着いた鳶色の眼

私が会いたくて、会いたくなかった、大好きで大嫌い、

見まごうことない、

私を迎えたのは、キャバッローネ十代目ボス、

跳ね馬ディーノ。

その人をただただ眺めて、食い入るように見つめるだけで。
幻覚?精神がひと時の慰めでも得ようとリアルな虚像を?はは、私、どんだけだ。
それに、私の知っているディーノさんとは少し違う。
ガウンとワークパンツスタイルはそのままだが、ご丁寧にも流れた時間を表すように伸びた分だけ金の猫っ毛は気ままに、目にかかる前髪分を左右に流して分けている。私の知らない青年だ。

「何してる、」

「ボス………」

何人かが最上の敬称を呟き、半歩下がって道を開けた。モーセのその似た男は私に距離を置いた所で歩みを止め、一人の男と猛者たち。自分よりも大柄で強面の猛者たちを背中に背負って立っていた。

じわじわ現実味が増してくると、つま先から足、体に何かが駆け上ってくる。モノクロだった世界が色を取り戻す。
声が届く距離。
手を伸ばせば触れる距離。

彼がいる。



[ 99/114 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -