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其れは余りにも曲解過ぎるんじゃありませんか。何だって大の大人のこの私が、肩車なんてせがむと思うのかね。例によって私の見掛けから鑑みた年齢を考慮に入れた結果、肩車なんぞが羨ましいそんな年齢に見えたと。
否定するにもそんな気力も削がれてしまって、訂正入れる事もしなかった。事実を知って傷つくのは自分であり、心が削がれる現実とやらはそのまま放置しておこう。てか、見かけって言っても世間様から見たら多分汚い痩せぎすの女児で、この男だって似たようなもので気にし過ぎと思われるのも癪だ。この人がどう思ったかはわからない。でも、内心申し訳なさそうにしているのは分かる。いらないと言えば、今度は少し残念という空気になり今度こそ放っておく。

意思疎通に関して、基本無口なので、私ははいいいえのニュアンスを動き一つで捉えなければならなくてイエスも不動、ノーも不動、どっちも同じじゃないかちゃぶ台ひっくり返す所だが、人間観察が趣味みたいな私はだからニュアンスは汲み取れた。それに、どうでもよいと思えないほどにはだらだらと続く共有する時間と空間と、それが私にこの男を許容する余裕と愛着を育んでしまった。逞しく若い体力を見せつけられ、世話をしている身としては喜ばしいことだ。
しかし、私はこの男の名前さえ知らない。何も理解していないし未来形になる見込みも有りそうにない。赤の他人から進展しない、脆く崩れやすい箱から、もう用は無いのだから。今までの事は忘れて、新生活を始めればいい。現実的な話、若い男は働き口も沢山あるだろう。しかし、男はこの無駄で何の生産性の無い時間をずるずる引き延ばしている。義理でも感じて居るなら全く勘違いも甚だしい。最初から育てる気の無い苗を貰っても朽ちて行くだけで、ならそれ相応に心を明け渡してくれないと、進展しようがない。お互いがお互いの腹を探り合って勝手な憶測を立ててみたって、理解しあえるはずもない。
私は、この膠着状態をどうにかしたいと思ってるのかと問われたら答えは、もうたくさんだ、傷着くのはゴメンだとうそぶいても、もう、触れ合ってしまった。
何処まで逃げても機械の様な鋼の心は持てない。何かしらの作用はどうしても受けてしまう。
逃げても仕方ない。観念しよう。

安い市を回って膨らませた芦袋の糸を緩めて、間に挟んで置いた茶色の封筒を取り出し、暫し躊躇して、封を切った。目は紙面の上に踊る、少し癖のある字面を追っていき、日本語で綴られた清廉達筆な文字で主に私への文句の混じった説教が長く長く続いていて、朗々とした調子でねちっこい恨み節を炸裂させる姿が久しぶりに浮かんできた。なんだ、こんなものかと拍子抜けだ。ああ、本当に不孝者で有ったなあ。便り一つ寄越さずにいた薄情な自分を反省したし、ああ‥‥まだ私は彼の中ではどれだけ厄介者でも身内のポジションにいるのだなあ。

「お前はいつも、今朝は何処かに出かけているな」

手紙に夢中になっている私に男が下に胡坐を掻いた低い位置から、私の手の辺りを注視しており、それは私に移った。

「これが何か気になります?」

試すように男に問うた。ほら、もっと、私を知ろうと思って欲しい、それは裏返しに距離が縮まった証だから。

「これは………」

まさか、私は実は

天才医師の知り合いがいてその人に久しぶりに連絡横したら返事が返ってきてその説教文がこれなのだけどそもそもその人に生活いろいろ保障してもらってて簡単な処置はその時に習ったのだけどそれをはかってくれた恩人がキャバッローネファミリー所謂マフィアのボスで成り行きでそこで生活共にするようになりましたがその成り行きと言うのが私謎のテレポーテーションをしてしまいまして縁で居候になりましてそれがどうしてこんな所に居ると言うと私もいろいろ複雑でしてなるべくしてなったと元々虚構で成り立っていた関係でしたから仕方のないことかも知れませんがどうでもよくなってしまって行き当たりばったり気が付けばこんな事に波乱万丈ですね自分が一番自覚してます

なんて馬鹿正直に言えるわけも無く。



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