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「罪なお人ですね、ボス。
仲良くするのはいいのですが、そろそろ本題に入らないのですか」


低い冷静な声色が、ほんわかモードだった雰囲気を一掃した。

この人の存在をスッカリ、忘れていた。この、金髪美人、ディーノさんが格好良くって、それだけで精一杯で。
深いブラウンの目が、此方をじろりと見つめている。
この黒髪の人はディーノさんの後ろにずっと居たわけで、ずっとこの人は馬鹿みたいにうろたえる私を一部始終見ていたに違いない。この人は私の思ったことなどお見通しなのだろう、呆れたような顔をしている、ような気がする。
というのも、無表情であまり分からない。ディーノさんは罪?と頭をひねっている。自分の笑顔にどれくらいの破壊力があるのか分かっていないらしい。ディーノさんて、もしかして天然、なのかなあと思った。




「でだ、お前口が利けないみたいだが、元から、な訳ないよな」

仕切り直しとばかりに深く椅子に座り直したディーノさんは、口を開いた。

もちろん、首を横に振る。

「そうだよな。部屋で保護した時、日本語を話してたと報告が来てる。お前は確かに東洋系の顔立ちだ……でも、中国系ではないしな。てか、話がこうやって通じてるんだもんな、いまさらか」

私の確認を取った後、黒髪白衣の人に向き直り説明を請う。黒髪の人は静かに答えた。

「心因性の一時的な失語症でしょう。極度の緊張と恐怖が原因だと思われます。
時期に回復するでしょう。」

その言葉にホッとする。

ディーノさんは私に向って二カッと笑ってよかったなと言った。
ちょっと、きらっきら笑顔を向けるのはやめてほしい……心臓に悪いから!

苦笑いを返し、頬の熱を手で扇いで懸命に冷ましていると、

彼の纏っていたお人好しそうな和やかな雰囲気が一瞬にして変わった。私を射抜く視線は鋭くなり、空気が張り詰める。まるで、人が変わってしまったかのように。
突然の変化に混乱し、思わず居住まいを正してしまった。


「お前は、突然俺達の前に、前触れも無く、現れたな?如何いうことだ?

部下からの不審人物の報告もない、誰かが侵入した形跡もまったくない、さらに、セキュリティーカメラにも映ってない。

お前が堅気だということは、俺にだってわかる。お前がここで如何こうしようとするのは、無理だ。

だが、怪し過ぎるんだ、お前は。
俺も上をやっている以上、ここにいる奴らを守らなきゃならねえ。

それが俺の義務であり、――願いだ。」

真摯な目をそのままにゆっくり言葉を吐いたあと、すこし、頬を緩めた。

「だから、正直に話してくれねえか。どうしてあの部屋にいたのか、突然現れたのか、そこまでの経緯、全て。
わかることだけでいい。詳しく教えてくれ。
勿論、悪いようにはしねえ。此方も、出来る限りの事はするから」

こくこくと頷くしかなかった。今、ディーノさんは責任者としての覚悟を私に見せてくれた。私を侵入者としてではなく、子供扱いもしないで、ちゃんとした、一対一の対等の人間として。このひと、本当に、良い人だ。上っ面の自分に酔っている優しさじゃなくて、もっと根本的な、この人の有り様を其の侭映したような、優しさ、厳しさ。怪しいとあからさまに言われるのは少し傷ついたけど、それは仕方がない。私はここの人たちから見たら唯の得体のしれない異端者だ。それなのに彼は私に敬意をもって説明を請うている。
信じてくれるかわからないけど、正直に話そう、と私は覚悟を決める。それが私に返せるディーノさんに対する最低限の敬意だ。

途端ディーノさん雰囲気が柔らかいものへと変わる。


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