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指摘されて一時意味が分からなかったが思い至って、勢い良くそこを押さえて真っ青になった。

「これは、違くて」

「何が違うんですか?!俺を追い出したい理由なんて、恋人が出来た以外の何があるんですか」

迂闊だったのも悪いかも知れないがスクアーロさんも余計な置き土産を置いて行ってくれた。内心舌打ちをしたい気分だった。言ってくれれば良いのに!
雰囲気がガラッと変わり、これがこの人の本音だと私も人を見る目のない。

「ユイさんだけは違うと思ってたのに!
俺の事わかってくれると……」

話が通じない聞く気もない。私を勝手な偶像化してるのは構わないけど、理想を押し付けられちゃ敵わない。無意味なやり取りに段々腹が立って来た。

「だったら何だっていうんですか」

「…何だって?」

「マッテオさんには関係ないことです。あなたに許可をもらうような筋合いじゃない、違いますか?」

言ってやった。今までの貯まっていた鬱憤を晴らしてやった。
暫く、相手は呆然て帰す言葉もない。私が口答えするなど思ってなかった顔だ。
私を見くびっていたのはこの人だ。

「呑気なモンすね……

キャバッローネがどんな窮地に有るかも知らないで………」

事もあろうに捨て台詞を吐いて……、軽口の嫌みのつもりだったのだろうけど、
私には効果は絶大で、頭が真っ白になって、
もうどうにもこうにも、私はこの憎き来訪者に掴みかかっていた。

そして頭の何処かがぶちりと切れる音がしたんだ。

思い付いたら止まらなくてはやる気持ちを抑え付けるに苦労した。時間通りに来ない電車なんて運営停止してしまえばいい。何で全然来ない。やっと乗車すれば走り出すのも遅い。スピードも鈍い。いい加減人間の集まりめ。

全てに唾を吐く勢いで罵っている内に目の前には懐かしい道、感覚で目を瞑っても辿り着ける。あれ、先ほどまでのろのろ鈍足な列車のシートで貧乏ゆすりをしていた筈なんだけど?何で?記憶がとびとびで断片的にしか掘り起こせず、直ぐにその疑問を投げ捨てた。余計な考えなんて必要ない。

とっぷり夜は更けていて、今は、…時計を持っていなかった。上着を羽織るのも煩わしく、極寒の冷気に晒されているのに何故か寒さは微塵にも感じない。吐く呼気は白く直ぐに消えた。私は何時もの順路をたどって、塀をよじ登り、森を駆け抜けて、ぼろい側面に身長に足を掛ける。手が悴んで物が上手く掴めない。二度落ちて、三度目で目的の場所まで登る事が出来た。悴む指の爪には土が食い込んでいてそれでも上る、もはや執念だ。
年月によって歪み、建付けの悪くなった狭い窓の鍵など、コツを掴めば直ぐに外せる。力を加えるとカチンとチェーンの外れる硬質の弾ける音がした後ゆっくりと窓ガラスをスライドさせて、隙間に自分の体をねじ込む。部屋の埃っぽい匂いがして、寒気の吹き込む隙間を元に戻した。物置と化している空室は医務室から直ぐなので、場所的にも内緒で出入りをするには最適だった。
部屋に入ってしまえば如何とでも言い訳は聞くが、今は逆に自分の足音が妙に廊下に響いている気がして気になったのが変な感じ。お化けでも出そうな古い屋敷は明りが無いと、一掃薄気味が悪かった。

初めは慎重に足を一歩一歩進めて誰かに気が付かれないだろうかと戦々恐々だったが、距離的に近いと思うと心ははやった。
早く、早く、早く。まるで恋人に合うみたいに胸が高鳴った。




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