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何かインパクトが必要なら変わりたいと本気で思うなら切っ掛けはこういう事でも有りだと思う。
私の矜持か価値観か何かを粉々に砕いてくれるかも知れない。
強引に襟を掴んで手繰り寄せた。それにこの人格好良いし。剣士は今度も私を救ってくれる。この人ならいい様な気がした。
覚悟を決めるとドクリドクリと血流が鳴る。相手を挑むように見上げる。

負けるもんか。尻尾を巻いて逃げ出したり何かするものかと戦闘に臨む勇者の気持ちだ。

至近距離で睨む。
睨み合う。

「………。」

「………。」

「…………。」

数分間、
シチュエーションだけなら甘い恋人同士のそれで、固いベッドに押し倒されている構図。

でも、何か違くないか?

「………止めましょうか。」

「………だな」



私達の間にはまったく、



色気が足りない。

当たり前だよね。私はスクアーロさんに恋愛感情を持って居ないし、向こうだってガキだガキだと相手になんてするわけない。だからさっきの熱に浮かされた様な行動はただの間違い。ただの勘違いだ。そうに決まってる。有り得ないこと考えて馬鹿だなあ私。アハハと自分ツッコミしてみる。
多分向こうも今頃頭の中で今さっきのことを後悔してる。だって、その証拠に私からなるべく距離の離れたベッドの一番端で頭を抱えているんだから。うろたえるスクアーロさん、面白い。観察していると何か考えに至ったらしくがっくり肩を落とした。俺に感謝しろと頭を冗談ぽく小突かれたが、何がなんだか。でもスクアーロさんならよいと思ったのは本当何ですよ。


結局、スクアーロさんが置いていったのはもう一生見つからないと思っていた柄物。本来の目的はこれだったみたいでまた心がじーんとしてしまった。流れて来た物を気になって持っていてくれていたという。お守り代わりに持って置こう。手の内の感触が懐かしい。
深くベッドに座って、出したりしまったり弄びながら、考え始めた。
敬遠していたが別に何ともなかったし、むしろ懐かしくて距離を置いたから彼としての一個人を真正面から初めて見られた気がしたんだ。

だから、私はもう大丈夫。
今日こそちゃんと言おう。
今度こそ決意を固めて、膝の拳をぐっと握った。

「どうしたんですか。薮から棒に」

「だから、本当言うと迷惑してるんです。
ご心配して貰っているのはありがたいんですが、私もう関係ないって何度も言いましたよね。
毎回尋ねてこられるのも、変な誤解をされて…


「いやいや、そうでなくてですねそれは何十回聞いてますから知ってます」

出迎え早々ずばり切り込んで口を挟む暇も与えない。持参するケーキの箱さえ受け取る隙さえない。納得が出来ないとマッテオさんは困惑気味だ。


「…何故突然そんな事?

俺、頭悪いから……何か気に入らないことしてしまいましたか、なら謝りますから!可笑しいじゃないですか、ユイさん大丈夫って言ってたけどやっぱりくらい顔で、俺じゃ役不足でも何時かはって言い聞かせてやっと……
ユイさんも笑ってくれるようになって上手くやってると思ったのに
ずっとユイさんには迷惑なだけだったてことですか」

「それは………」

何やってる。相手の傷付いた顔に絆されるな。言って置くが私もかなりマッテオさんの無神経さには振り回されていたと思う。三日空けずに顔を出して、何時までも同じ頼みを繰り返す。その気はないと何度も言った。
あなたを見る度否応なしに思い出す諸々がどんなに私にとって苦痛だったかこの人には分からないのだ。カルロさんやグイードさんに相談もしてみたがこの人はいくら言ったって止めやしない。

「お客さんが来てたんですか」

「え?」

目敏く、指した指には二人分のマグカップがそのまま。
ああ、そういうことですか、とマッテオさんは白けた顔をして私にじろりと強い視線を送った。

「首、跡が」



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