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「ああ、面倒くせえ!」

鼓膜が破れるほどの唸りがその沈黙をぶっ壊し、神経質に銀髪を振り乱し掻きむしる。

「わ、ちょ、ちょっとスクアーロさん!
何のつもりですか」

何を血迷ったかスクアーロさんは行き成り距離を詰めて、腕を乱暴に引っ張った。ぐわし両肩を掴まれて、真剣な顔で言ったことが、

「泣け」

「…へ?」

「泣けっ!!」

迫る怖い顔、怒声に一瞬蹴落とされた。何言ってるんだこの人。そんなこと命令されて出来る事じゃないだろう。
少し笑った私をスクアーロは睨んだ。私の事なんか、どうでもいいと思ってるくせに。

優しい人は本当損してる。
だから、私みたいな厄介なのに、なつかれてしまうんですよ。
スクアーロさんて実は凄く世話焼きなんですねと言うと、物凄い剣幕で否定された。照れなくてよいのに。

人の優しさに触れたと同じくらい自分が情けなくなった。私、何やってるんだろう。
何時もそうだった。

帰って来るのを待っている、だけ。
話してくれるのを待っている、だけ。

生半可な荒療治にはでは此処まで悪循環を齎した私の悪癖は治らないだろう。
でも、だから何だっていうんだろう。
何をしたって無駄だ。
努力したって結局今は一人じゃないか。

無理矢理断ち切れば、何かが変わるだろうかと思った。

私の横に今居てくれるのも前に助けてくれたのもこの人。それなのに可愛くない態度取ってたかも。

盗み見る不機嫌の横顔は肌の色は白く透き通るようで、相当な美丈夫で何時も眉間にシワを寄せているのがもったいない。サラサラの銀髪、意志の強い鋭い目。そして、目が行ったのが、薄い唇。

そういえば。私この人とちゅーとか…したことあるんだよね。なのになんで平気でいられたんだろう。
こんな綺麗な人とキス……。邪なことに考えが逸れてしまって…ダメだ。何だか顔がほてってきた。

さっきちょっと優しくされたから?
スクアーロさんが何だか、格好よく見えてくる。

「お゙お゙お゙い、お前、顔赤くねぇか?
見せてみろ、熱でも…」

勢い任せだった。
怪訝そうに除き込むその顔に自然に手が吸い寄せられ、両手の指に髪を絡ませ請うように熱の篭った目でブルーの光彩を見る。
強引に薄い唇に押し付けたものは下手過ぎてキスとは呼べない。ひんやりしてしっとりして信じられたいくらい気持ちいい。見開かれた至近距離に見える眼。何が起こったのか理解していない一瞬の虚脱が私の悪戯心を満足させた。

「お、お前…」

「はは…いつかの仕返し、なーんて」

最後の音を紡ぐ前に、乱暴に私の唇は再び奪われていた。びっくりしてこじ開けようとする熱いものを半開きになっていた口から受け入れてしまう。ちょ、ちょっと待って。慌て体を押し退けようとするが力じゃ敵わない。

恥ずかしい水音がして、首付け根の辺りにぞくぞく電流が走った。

何処でつけば良いか分からない息継ぎに頤を大きく開いて、更に深く飲み込まれた。体が痙攣する。飲み込みきれない温い唾液が顎、首を伝う。
戸惑いを伴った初めて呼ばれた私の名前。本当にこの殺人鬼が呟いたかと疑うほど熱っぽくて。私の錯覚かもだけど。
本当に偶然だったのかな。広い街の中で一人の人間に邂逅する偶然なんてそうそうあるものじゃない。もしかして、この人。

まさかと思いつつも試しに抵抗を止めて、首に巻き付けた顔を擦り寄せると動きが止まった。そして恐る恐る抱きかえされたのだ。可能性が確信に変わった。

優しくベッドに横たえられてシャツのボタンを外し、私の首元を吸う。展開早いな。

さて、この状況をどうしよう。
やっぱり、今日あったのは間違いだった。
自分が冷静なのにも、なんだかなあと言う感じだ。
きゃあきゃあと騒いで赤面するほどしおらしい性格してないし。私が純情ぶっても可愛くなんてないし。
でも、私に拒否る理由なんてあるだろうか。ちょっと思った。
流れの意志が存在するなら、流れに身を任せてもよいかも知れない。



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