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あなたが謝る必要はない、と言おうとするがやはり音にならない。出し方を忘れてしまったみたいだ。声を発せない不自由さに初めて気づく。
でもこのままだと彼はずうっと申し訳なさそうな顔をし続ける。そんなのは、私の良心的に、あと少しのなぜかの罪悪感に、真っ平御免だった。

どうしたら伝わるだろう…………助けに来てくれたとわかって、どんなに嬉しかったか。やさしい声が、腕が、どんなに私に安心を齎したか。そう、息を切らせて助けてくれたくせに、この人は分かっていない。私は彼が来てくれなかったら、今頃如何なっていたのだろう。大げさかもしれないが……死んでいたかもしれない。その彼が、自分の責任だと、嘆いてくれている。自分のせいでもなんでもないのに。


そう思うと何だか切なくて、泣きたくなって、気付いてほしくて、

私の手は、彼の手を持ち上げ、掌を自分の頬に当てていた。
生きている、少しごつごつしていてあったかい感触が手から頬から伝わって、心が暖かくなる。

そして、目一杯、思いっきり、彼に向けて笑顔を作って見せた。顔の筋肉を動かすと、頬の傷がちりりと痛んで痛い。顔が引きつっているのだろうけど、気にしない。


彼、ディーノさんは目を見開いて私のなされるがままになっている。


でも……うん。だんだん恥ずかしくなってきた。頬も熱くなってる。自分でもちょっと馴れ馴れしい、間違ったらちょっと引かれてしまうことをしているとは分かっている。でも仕方がないではないか、声で伝えられない私は。そうしたら残る道は、スキンシップだ、ジェスチャーだ、愛嬌(?)だ。恥ずかしがって伝えたいことも伝えられないなんて、それこそ、真っ平御免である。

しかし、………いい加減反応がほしい。ディーノさんはカチンと固まってしまって自分の手の方を穴が開くのではというほど凝視しているだけで、私はとても不安になる。

白けた雰囲気を少しづつ感じ始めて、少しずつ頭が冷えて来た。
うわ、私、何やっているんだろう。冷静になると余計恥ずかしい。会ったばかりの人の手を馴れ馴れしく握って、気持ち悪いことして。
引くよね、引きますよね、何、調子乗ってるんだって、私なら絶対思う。

冷や汗でてきて、目線は下の方へ。顔なんか見ていられない。

ぴくっとディーノさんがの手が意志を持って動いた。カサカサしている指先にするすると頬を優しくなでられる。
吃驚して顔をあげると、柔らかい笑みを浮かべたディーノさん。
少し目を細めた後、花が咲いたように、ニカッと笑った。

「慰めてくれんのか。ありがとな!!!」


うあ、頬が熱い。心臓がフル回転して頭が逆上せそう。

生憎、生まれてこの方あまり男性の方とお近づきにはなったことがないので、若い、しかも美人な男性の方の万延の笑みに耐性なんてもっていない。というか、なんて爽やかに笑うんだこの人!周りがキラキラしているように見えるのは気のせいではない!金髪+男前+爽やかって……まるで物語に出てくる王子様じゃないか。こんな人に、子供の様に縋って、泣いて、子供みたいに甘えて、少し前の自分を殴りたくなってくる。恥ずかしい!そして、本当にこの人、格好いい。



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