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「大丈夫です、私は、カルロさん。苛められたりなんかしてませんよ」
「……そうなの?」
「私は、自分の中での最善を選んだだけですよ。それだけなんです……これで良かったんです」

曖昧な解答にマッテオさんもカルロさんも納得できないようで、何を今さら、隠しだてする必要があるのかと苛立ちが訴えている。カルロさんが少し考えた風に顎に手を当てて行った。

「その、最善とやらを考える切っ掛けは、もしかして、君が右の手を庇っているのとは関係が有る?」

「…………」

上においていた右手を思わず、さっと膝の間に隠す。

「ふうん、そうなんだ………」

嫌な間だ。全てを見透かす様にカルロさんは目を細めた。

「君も、ボスも、バカばっかりだ。本当に欲しい物は遠慮とか、誰誰の為とか、詰まらない理屈を捏ねてたら、自分の手の届かない所に行ってしまう物だよ
まあ、俺も人の事は何も言えないけどね。一応、忠告」
「俺に何か出来ることは…?今なら無茶も聞いちゃうなあ」
「そうですね……じゃあ、余り自分勝手はしないように」
カルロさんの鳩が豆鉄砲喰らったような顔は中々見られない。

「他人の事情に首突っ込むの良しとしない人ですからね、グイードさん。でも置いて来ちゃったら可哀相ですよ、今ごろ血眼になって、探してるかも」

カルロさんがグイードさんと一緒にいないのは大体都合の悪い時だけだ。そう指摘すると、にやあと笑って流石ーと私のほっぺをぷにと押した。

「……いやあ
ユイちゃんには本当に恐れいるよ、でも、俺達もずっと一緒って訳じゃないよ?
だって俺はどっちかっつーとパソかたかたさせてのが仕事じゃん、グイードは完全な肉体派だし!つか、一々俺がなすことネチネチうるさいし〜〜
やんなっちゃうよもう、ねー」

カルロさんは文句ばかりだが、その言葉通りにカルロさんの居る所、後にはグイードさんは必ず現れる。で、カルロさんも逃げる、追う。果てのない鬼ごっこだ、片方が一方的に気の毒な。

カルロさんはうっすら笑ってまた遊びにくるよ今度はあいつも連れて、そう言って椅子のコートを羽織りスマイル。
はっと気が付いてももう遅い。からっと無くなった料理の山。

あのやろう、油断したらすぐこれだ!
食い逃げ!無銭飲食!私のツケにする魂胆だったのか!懐かしいと思って損した!

「マッテオさぁん…申し訳ないですが、折半で良いですか…あの今月の食費が…」

どうしようも無くなって結果、マッテオさんに泣き付いた。いえ、全然大丈夫ですよ心配しないで下さい、と今は遠くに逃げ仰せてしまった自分の兄分の方を遠く見てマッテオさんとシンパシーが通じ合う。

「これを…」

徐に内ポケットから出した茶封筒は随分厚みがある。

「これは……?」

なんだろう、書類?直ぐに出てきたイメージは誰かさんが貯めるのが大得意だった無作為の束だ。

「ボスからです。開けて見て下さい」

逆さました口からずしりと重いのは紙の束、だったのだが…。

「何ですか、コレ…」

綺麗にシワ一つない紙幣の束、こんな大金を持ったことなどない、今の何年働いても手にできるかどうか。
思考を突っ走らせた所でろくな事に成らない。悪い方へ考えるのは私の悪い癖だ。私はこんな大金貰う義理も無ければ、欲しいなんてねだった覚えもない。
さっと顔色の変わった私に流石に気が付いたのだろうマッテオさんは可哀相にまるで自分が悪いことをしたみたいにオロオロ動揺している。

「あの、ですね、ボスが、ユイさんに届けてくれって渡されて…ユイさんには必要な物だからって、俺は全然中身とか、知らなくて……」

「あ…大丈夫です、わかってます、わかってます。頼まれたんですよね!
でも、すみません…ちょっと驚いちゃって…」



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