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「俺ビックリしちゃったよ、だって、やっと帰って来てユイちゃんは居ない。
ボスは何も答えてくれないし……水臭いじゃない、行き先ぐらい教えてくれたってさ」

昼間っからビールをジョッキで頼み、相当喉が渇いていたのかそれをごくごくと喉を鳴らし飲みほして、どんとテーブルに叩きつける。人の疎らになった一角で私たちは向きあい、気を利かせて出されたコーヒーの湯気が私と彼らの間をくゆる。

「あの、みなさん、お変わりなく、お元気でしょうか」

あれから私にあの場所の現状を知らせてくれる者はなく、やっぱり気になった。

「あー……あー俺はあんまり出ずっぱだから、分かんないどさ。別に何も聞かないし相変わらずじゃない?」

「そう、ですか……」

微妙に言葉を濁して魚を摘まむカルロさんなど眼中に無く甘えるな何を期待して居ているのと自分を罵る。

「食堂の聖母さまもしょんぼりしてたよ?自分がきつく言い過ぎたからとか何とか。
何、君たち喧嘩でもした?」

「いえ、そう言う訳じゃないんですけど…」

視線を下に落とし、茶色の水面を見つめ、何事か聞かれるのが怖くて、無いも告げずに身も世もなく飛び出す様に出る、自分勝手をした。私の身の上に怒った一連の事件もカルロさん、マッテオさんは勿論知らない。マリアさんとは一件以来口さえ聞いていなかった。

「マリアさんは心配してくれただけなのに、私が」

「君が?」

「それをつっぱねちゃったと言うか……私もあの時はいろいろ煮詰まってて……」

「ふうん?」

私の言葉を待ち促すカルロさんの目は私の反応そのままを移すばかりで何を考えているのか読めない。

「君は変な所頑固だからねえ……早い所謝っちゃった方がいいよ。意地張ったって碌な事無いんだからサ〜」
「私…?」
「なに、もしかして、ユイちゃん、もう遊びにも来てくれないつもりなの?」
「いえ、そう言う訳では」

頑固、頑固?私が?
カルロさんは自覚なかったの?と面白そうに笑った。

「で、マッテオ君、君は何時まで、怖い顔して黙ってるつもりなの」

ショックを受ける私を構うことなく、マッテオさんに水を向けたカルロさんは隣のマッテオさんの肩をぽんぽんと軽く叩く。それでもマッテオさんは思いつめた顔で俯いている。さっきから気のいいマッテオさんがにこりともせずに黙っているのが気になってはいたのだか、マッテオさんにも勿論挨拶もなしにお別れになって、それを怒っているのかと思うと気軽には声は掛けられなかった。カルロさんの様に直接思ってる不満を真っ向からぶつけてくれる方がまだマシだ。其処ら辺、カルロさんは人への心配りを心得ている。カルロさんがただ軽薄なお調子者ではなく、以外に思慮深い事を良く知っているので、私はこの人に好感を持つ。

「も〜仕方ないなあ、じゃあ、俺が代わりに聞いてあげてもいいよ〜〜?聞きにくいんだったらさあ」

「いや、ちょっと待って下さい、言います!言いますから!」

必死にふざけたアロハシャツの袖を引っ張るマッテオさんは、そう?と残念そうにするカルロさんを押しとどめる事には成功したが私と目が合うと「う…」とまた無いかを言いあぐねて結局口をもごもごさせるばかりだ。

「ごお、よん〜、さんにいいち、ブ−!時間切れ〜〜もう、うっとうしいなあ〜。はっきりしない男はもてないよ、マッテオくうん
して、ユイちゃん、俺もこれは気になっていた所では有るんだよね、気を悪くしないで聞いてね」

途端の真面目な雰囲気に呑まれて神妙に頷く。

「君は知らないだろうけどさ、君が居なくなったってことで結構俺たちの中では衝撃だった訳。だって、アレじゃん。目に入れても痛くないってくらい目出てたボスがユイちゃんを逃がしちゃうなんて、相当な事じゃん。
言ってる意味分かってる」
「はあ……」
「ダメだ……全然分かってない。ボスも苦労するね全く。」
もったい付けたいい方に早くしてくれ、と言いたかった。
「それで、いろいろ憶測が飛び交った訳。不治の病にでも掛かったんじゃないのか、とか、事故に巻き込まれて、とか、良からぬ輩に攫われたとかさ。でも、ピンピンしてるみたいだから其れは無いね、そこは安心したよ
あとはねえ、追い出されたとか」

キラリと瞳の奥底がきらめいた。



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