この辺りで手を打ってやる!

「スガ、最近フルで練習出てるな」

練習を同じくする二年の頼れる良心、大地はそう思い出したようにいう。
まだフルコートは三年生が牛耳って居る為にコート端で二人でトス練に励む。
大地の放ったサーブが菅原の腕の元に吸い込まれる。

「え、なに?」

三年生は夏の試合で引退だ。それ以降残るかは任意。しかし烏野は強豪校ではないから、三年生はほぼほ引退。
自分は、セッターとして。そして、大地は次期部長として。自分達だけで作るチームはこれからどんな色になるだろう。今年は有望な一年生が何人か入ってきたし、タッパがありスパイクがピカイチの東峰もいる。期待に胸が躍る。

「委員会だとか言ってなかったっけ。
大丈夫なの?」

大地は難なく返って来たボールを腰を低く構えて受け入れる。大地は周りによく気のつくチームには精神的要の選手。大地は気の付く人間だが、其れをあえて触れないスキルも見につけており、付き合いやすい友人としても信頼を寄せている。菅原の沈黙に何らかを察して言及するのをやめた。

「スガ、さ……、あんまり深く考えなさんな。
スガは、周りのこと考えすぎるから、スガの良いところなんだろうけど、もっと上手くやればいいのにってもどかしく思う時があるよ、
俺はそれが少し心配」

「うん、………」








大地にはそう言われたが、自分には無理なんだ。そう言う性分だとでも言ってもいい。自分は聡いほうでは無いけれども、もし気が付いてしまった。全てを真正面から受け止めるから、息切れしてしまうと言うのに、一つづつ自分の中で消化して行かないと不器用な自分じゃ何一つの無し得ない気がする。
馬鹿正直に菅原は練習の後、行くべき場所に行く。最も会いたくない人の元へーーー。


その子はやはりいた。誰もいない図書室、返却書庫と見比べながらカウンターでパソコンを弄っている。前にのめるようにデスクトップ画面と格闘している様で、ひと段落、と肩を落として、積み上がった書物を抱えた。音もなく入室していた菅原はカウンター越しにそれらを横から取り上げて何食わぬ顔でサッサと本棚の奥へ入った。
一瞬認めた、ポカン、と菅原を見上げる女の子。少女のあっけにとられた顔で少し溜飲が下がった。
後ろを女の子が慌てて追い掛け、言う。

「意趣返しですかぁー?
盗み聞きの菅原くん?」

「いいから、見てるだけなら一緒に手伝えよ。まだ、沢山残ってるんだろ」

菅原の素っ気ない応えに押し黙り、二人で黙々と作業に没頭した。

「で?」

「で、って?」

「なんで来たの」

うず高く積み上げられていた書籍は四分の一程に減った。手を休めて横を向けば、無表情のその子が棚に手をかけている所だった。
折角来た菅原に対しても、何しに来た、ときた。一度仲の良い友人とのやり取りで愛想を振りまいていたその他漏れない菅原に本当の思う所を暴露してしまったので、開き直り、嫌味を効かせるさまは、陰険、愛想なし、口悪しの三拍子が揃っている。成る程これは正にこの女子の隠したかった可愛らしい容姿に隠されていた本性であるのだな、と菅原は得心した。

「なんでって、もともとオレの仕事だったんだし。前にも言ったけど任せっきりはやっぱり悪いだろ」

「へぇへぇ、真面目素敵男子の言うことをは違いますねーー!すごいですねぇー!流石、真面目!わたしゃあ真似出来ねー!さっすがやねぇー」

くそ、わかってても腹が立つ。本来和やかな菅原だが、流石にこめかみが筋張った。真面目真面目と連行するのは菅原が嫌がると知っての上。
はあん、と肩を竦め完全にナメくさった態度の女の子は自分の恋い焦がれた女の子の偶像と同一人物とは思えない。所詮、可愛らしく性格もいい女子なんて現実には居ないのか。正直、女性不信になりそうだ。

「そ、そんな事言ったって、もう騙されないから!それに俺は真面目じゃないって言ってんだろ!」

「ああ、真面目クン!君を真面目と言わずして、一体誰が?!以下反語。
正直、あなた気に入らなかったのよね、俺良かれと思って仕方なくやってます、てポーズして、下心丸出しなの、わかってたんだから!ばっかみたい、ヘラヘラしちゃって」

「な、俺だって、君がそんなこと平気で言う人だったなんて露にも思わなかった!」

「あーあーこんな奴ですいませんでしたぁ!今からでもお気に召すように致しましょうかぁ?すーがーわーらーくうん?」

埒が明かない。自分たちは、下校時間も過ぎて、人のいない図書室で怒鳴りあって何をしているのだろうか。

「ああ…もう、なんだこれ…絶対に詐欺だ…俺のときめきを返せ……!」

「何よ、どーせこんなんよ。だいたい、私のイメージ勝手に押し付けるのはそっちじゃない」

子供みたいな言い合いをするよりも、何か言わなければならないことがあった気がする。
憤然とする彼女に向けて、

「いろいろ、今までありがとう、其れに甘えちゃってごめん。凄く助かった」

顔を上げた菅原の真摯な言葉に一瞬瞠目した女の子。
まるで珍しいものを見る目で、まじまじ菅原を眺めた女子。

「うっひゃあー菅原くんって、ば、が付くほうの真面目クンだったんだぁーちょっとはっけーん。そんなんで生きてて大変じゃない?」

口の悪さは相変わらずだったが。


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