何故そうなったと言いますと

某月某日、一幕抜粋。

「あれ?もしかして、もう一人の図書委員って、菅原くんなの?」

「う、うん、実は。休んでる間に押し付けられちゃって」

「でも菅原くんって部活やってるよね、大丈夫?放課後の当番とか。週一で回ってくるよ、顧問の先生とか、許してくれる?」

「あはは…うーん。どうにか遅れていくこと許してもらうしか…」

「じゃあ、私が菅原くんの当番変わるよ!」

「そんな!悪いって」

「ふふふ、いいのいいの、私、帰宅部だし。元々放課後は図書室に居るの、図書室、結構好きなんだ。宿題とかやって帰れば問題ないわけだし」






「って、言ってたけど、流石に不味いよなあ……」

外周が終わって、第一体育館に戻る序に遠回りにロータリーの向こうの図書室に寄る事にした菅原はぼやく。

新学期が幕を切った。
張り切り過ぎて気張った結果、新学期二日目に風邪をこじらせた休む羽目になった愚かな二年生は多分自分だけだろう。菅原は少し間が悪い何処がある。その末路は死人にくちなし、もとい病人に口なし。「スガにピッタリの役職に押しておいてあげたぞーオレって偉い」のメールを深夜に見て、嫌な予感はしていたが案の定、翌日登校すれば後黒板の図書委員の下に菅原の名前があった。
学級委員、保健委員と並んで図書委員は不人気委員会。何故なら一週間に一回、昼休みか放課後にカウンターの貸し出し当番が有るからだ。
図書委員はクラスから二人選ばれる。知らない名前が隣にあった。新クラスで始めて一緒になった、菅原の面識のない人だろう。
元凶の悪友を縛り上げ、ついでにその真新しい名前の主の事を聞いた。その女子は奇特にも自分から図書委員と言う面倒ごとを引き受けたようである。
聞けば、その女子は自ら普通なら忌避する面倒ごとを勝手でる、先生に覚えめでたい優等生であるようだ。どんなお堅い優等生かと思いきや……。

一週間の内この曜日は、本来なら自分が放課後前半一時間半がバーコードリーダーを片手にカウンターに居るはずだった。その代わりに後半当番の片割れが前半から顔を出してぶっ通しでカウンターに立っている。部活で忙しい菅原への配慮だ。どうせ行くなら一時間も二時間も変わらないよ、と言ってくれたので、それなら…と菅原は一旦は、了承した。しかし、一週間二週間過ぎて、全てを任せて許されている自分。申し訳なさを感じない程面の皮は厚くなかった。そして今日、気にしいの菅原はどんな塩梅だと図書室を覗いてみることにしたのだ。
入り口をくぐる。中の人はまばらだった。主に受験を迎える三年生が自習室代わりにデスクを大きく利用している。書物の独特な匂い。ジャージで汗まみれの菅原は完全な場違い。入ってすぐ、正面カウンターに直ぐに見つかった。顔を伏せている所為でこちらには気がついていない。手元には分厚い文庫本。
声を掛けるとあ、と菅原に気がついて、文庫本をそのまま伏せ、椅子を前に寄せて手を振ってきた。

「あれ、どうしたの菅原くん?部活終わったの」

「いや、今から中練なんだけど。
ちょっと気になってさ」

「気にして来てくれたんだ。
ありがとう、菅原くんってとっても優しいんだね」

お礼を言わなければならないのはこちらの方だ。なんて人間が出来ているんだと打ち震えた。菅原は自分が割食って施す事はあっても、親切施されるのは余り経験が無かった。
心配症を優しい、と好意的に称してくれたのがとてもとても嬉しかったのだ。
少し話した後、「早く練習に戻らないと、怒られちゃうんじゃない?」と快く菅原は部活へと送り出された。ふと、図書室の玄関でカウンターの方を振り返る。あの子は顔を伏せて続きを読んでいる。
よし、今日も練習頑張ろうと菅原は体育館の方へ足取り軽く向った。

[ 3/8 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



TOPに戻る
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -