スガくんの彼女!

放課後、体育館。
女子バドミントン部と体育館を分け合い、練習に勤しむ男子バレー部。汗をかきかき声を枯らし、叱咤が彼方此方で跳ぶ。
そこに、場違いな制服姿の涼しい顔をした女子が一人。

「スガくんいますか」

上目で田中の裾を掴む女子に目を白黒させる田中は、今日はうん悪く古典の補習で部活に遅れ体育館外周のウォームアップ後に小休止をとっていたところ。スポドリで喉を潤し、汗は水道水をかぶる事で洗い流しした。小テストを教壇に叩き付け、コート練習に出来るだけ早く入れる様何時もの外周を何時もの二倍速度を上げた。その理由は、ボールを触るのが大好きな彼には当然のことだったが、一番は、普段温和な部長の機嫌を損ねたく無かったからだ。再試験で部活に遅れたのはこれで五度目。田中が体育館に滑り込んだ時、部長の大地はコートの表に出て来てきなかった。これ幸いと、ドリンクを傍らに置き練習に混ざろうとした時、見知らぬ女子に呼び止められた。
目の前の女子は自分の目線より幾分下に頭の頂点があった。凝視する田中を真ん丸の目玉を不思議そうに瞬く。
何処の誰だか知らないが巫山戯んな俺は忙しいんだと、突っぱねるつもりで勢い良く振り向いたら、この小動物みたいなのが、濡れた目で田中を見つめていた。指定のスカートに適度に気崩された胸元のタイ。彼女の「スガくん」とは田中も知る男バレの一先輩の菅原の事だろう。女子はまつ毛を伏せて、下方に視線を泳がせる。

「あの、スガくんは…」

「あ、えっと、スガさんすか?!」

じろじろと見過ぎたようで、『女史』は恥ずかしそうにはにかんだ。
なんだかドギマギしながら、ふんわりした雰囲気につられて田中は頬をかいた。女の子女の子した女子には免疫のない田中だ。華奢なからだ、小作りの面立ち、所作。田中を見上げる眼は少々の怯えと遠慮がある。この女子はか弱い女子の見本のように田中には見えた。
田中は「おーい今日スガさんは」同チームメートに大声で聞いた。

「菅さんは、今日は委員会でまだ来てないらしいっす」

「そうなんだ、ありがとう」

わざわざ出向いたのに手ブラで帰らせるのは申しわけない。

「あ、オレ、伝言伝えときますよ」

田中は申し出た。だが、女子こそ遠慮して、首を振った。口角をゆっくりと引き上げる。

「いいよいいよ、ちょっとすれ違いになっちゃったみたいだから、今日は諦めるよ。
ありがとう、えっと、田中くん?」

ジャージ胸元のローマ字をなぞった。

「はい、田中っす!!」

「うん、田中くん、また今度!」

女子は、愛想よくにこりと笑って、踵を介したのだった。




「ああ、それ、オレの彼女」

「マジっすか?!」

結局練習終わりの後片づけ最中に女子が訪ねてきた由を伝えた。すると温厚な先輩は、なんのおく目もてらいもなく、サラッと案の定の事実を肯定した。
部員が少ない男子バレー部は先輩後輩関係なく、ポールやネット、ボールの後片付けを手分けして行う。ネットを畳んで籠に放り込んだフォームそのままに、田中は固まった。ボールの籠を押していた部長の大地は、今さらかと興奮気味の田中に嘆息。

「てか、いつ情報よ、それ」

「オレは、知らねえっすよお!!てか、スガさん、ひでー!!何でオレに隠し事なんか…!
知ってたらオレだって、付き合い方考えたのに!!」

「おいおーい、お前は俺の何になるつもりなんだよ。
しかも、隠してねーって。そもそも、そんな大層な関係でもないし」

「先輩、リア充じゃないすか!彼女が居る時点で、別の世界の人間ですよーーー!!
毎日ウハウハ、すか、学校一緒に帰ろうって待ち合わせとか、ストロベリー甘酸っぱいアレですか!」

「はいはい、落ち着きなさいね田中。一年生がびっくりしてるでしょ」

「はあ、だから田中には言いたくなかったんだよな。めんどくさ」

「スガさぁん?!!」



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