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研究とは、経験と知識に基づき、コンマ何ミリ向うの新しい何かを見つけ出すのが最終目的である。なので、前提の知識なくは、研究内容の提示など出来ない。
ここは特殊機関、リーバーの専攻は数学、化学、言語学、それらを極めるのも一つだが、多分コムイ室長が望んでいるのはそんなものではないだろう。
今ある知見、経験をどのように応用し、この教団に還元できるか、である。その点、リーバーはまだ任期三か月、圧倒的に、教団に付いて、いやもっと言うとこの戦争、敵であるAKUMAに付いて全くと言っていいほど、最先端技術愚か、前提とされる基本知識さえも全く持っていない。
それを、なんという横暴か。
そう嘆くのも簡単だが、更にリーバーは考える。
何故、今、経験も不足、知識も不足のリーバーにそれが求められたのか。
リーバーは経験がない。
だか、逆に言えば何も物差しのないリーバーには嵌める枠もない。強みは若さ。
求められているのは、若さと固定概念にとらわれないの柔軟な発想。
型に嵌らない、自分だからこその意表を突くアプローチから、新たな知識の開拓へ。
求められているのは差し詰めそれだろうと、良く回るリーバーの頭はそう結論付けた。
なので、取りかかりは、必要知識を貪欲に吸収することを主に動いたが、それには囚われず、半分は発想をする回転させて、思いついた構想、フレーズ、心に留まった何でもをノートに書きだし、それらを並べ捏ね繰り回して、何かが下りてくるのを待った。
しかし、その課題は余りにも途方もなく、気の長い作業である。
そして、研究者の端くれリーバーは自分の雑然とした思考を他人に見られるのが好きではなかった。
ヘタなプライドなぞ糞くらえと思うが、実際、考えるときは一人の世界に入り込む方が落ち着くのである。
しかし、この書室を最近好んで使っている理由はそれだけではない、もうひとつ、その理由はーー。

―――ボオン。真夜中に時計がなる。
丑三つ時の、冷える書室の一角。
縦窓がギシギシと音を立てた。
梢がざわめいている。
今日は外の風が強いらしい。
外に反して、広い書室は紙に吸い取られてしまったみたいに無音だった。
リーバーが、また、ペンを握り、走らせ、また止めるを繰り返していると、ふっと。

ぺらり。

紙を引きずる音がしたのだ。誰かが、一枚の紙をめくる音。
リーバーではない。
リーバーは、各体制のまま体を硬直させた。

ぺらり。

ほら、また。

ぺらり。

無音な空間に、乾いた紙のめくる音。それは向かいからしている。リーバーは恐る恐る、視線を前へ―――。

それは、影だった。それは人だった。人の形をしていた。まず見えたのは頭だった。そして、華奢な指先だった。ましろい指先が、大判の書物に添えられ、その一ページをまた、

ぺらり。

先に送っていたのだった。

真っ黒な髪が、俯いているせいで顔を隠している。
ぱっさり肩で切りそろえられた黒髪が、艶やかで光っていた。
赤い、ぽたりとした下唇が綺麗な曲線を描いている。華奢な肩。
こちらが見ているのには気がついていないが、少女だ、少女が自分の向かいの席で本を読んでいる。



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