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この茶番のような会話も慣れれば何とやら。リーバーはなんとしなく今度はハン上司の肩を優しく叩いた。

「資料ですか。それぐらいなら、オレ、やりますよ。リスト上げてもらえれば、ついでに書庫にも用があるんで」

リーバーが申し出るとハン上司はおおおおおと鳴きそうな顔でリーバーの肩を強く握った。

「ウェンハム、君はなんていい子なんだ!」

「聞いた?!ウェンハムのこの気遣い屋さん!」

「はいはいうるせ」

「あんまり甘やかすなよーウェンハム」口々にヤジが飛んだ。

一人楽するのが許せないらしい。
その様相に苦笑し、他の方も良かったら、とリーバーは周りを見渡す。耳ざとくロッシ上司が食いついてきた。

「じゃあ、これ一通り頼む。」
後ろ手に渡された物はリストではなく、項目だった。
目ぼしい物よろしく、と軽い口調の割にえげつない要求をしてくる。
じゃあ俺も、私もと周辺の屍たちが、これもあれもそれもと仕事をかぶせて来た。
まるで安物のバーゲンセールに血眼になって群がる主婦のようだ。
外に出でるのが億劫なマッドサイエンティスト達に共通して言えるのは、挙って皆、面倒臭がりで、そして遠慮がないのである。

随分この生活にも慣れたなとリーバーは書庫に一人籠る。
丑三つ時の夜半時、フル稼働している部署は時刻関係ない科学班のみ。
リーバー以外には利用客は今の所見える範囲には見受けられない。
まるで鬱蒼と茂った樹林のようにリーバーの視界を林立する本棚が遮っているので、唯わからないだけかも知らないが、当たりは静かだった。
分厚い専門書を抜きだし、埃を叩いて落とす、付箋を貼るの作業を機械的にこなす。書庫には膨大な数の蔵書が保管されており、そのジャンルもさまざまだ。
その書籍らに埋もれながら、黙々と手を動かし、リストを見比べ、ワゴンに積みあげていった。
最初は不安しか涌かなかった職場だが、雑用を熟す手際もこなれてきている。
こうやって、一介の研究者の身分では手にできないような膨大な文献の宝庫を手に取り、直の肌で最前線の研究の進行に携われている。
錦糸でおられた背表紙を愛でるがごとく、指の腹で撫でる。
人生とは、よくわからない、ものだと。

「本日付で本部化学班配属になりました、リーバー・ウェンハムです」

某年某日。
黒の教団、本部。
人類の脅威AKUMAに対抗すべく設立された特別公的機関。
リーバー・ウェンハムは僥倖にも本部に配属が決定したのだった。
在学の担当教授から推薦を頂き、彼の下に届いた、封蝋の押された要請書と鉄道片道切符が、自分の今後の運命を大きく変えた。

「やあ、よろしく!君みたいな優秀な人間が来てくれるのはとても助かるよ!」

軽快な口調で握手を求めてきたベレー帽に眼鏡の中国系の男は化学班室長、コムイ・リーと名乗った。
本部を統括する人間にしては随分若い。
気安く手を取ってぶんぶん振り回し、感激を伝えてくる。

「じゃあね、早速!!」

挨拶もそこそこに、責任者直々の館内案内が始まり、食堂、私室、ありとあらやる施設、用途が良くわからない謎の部屋などに次々案内された。
最終目的先はリーバーが配属になる科学班フロア、吹き抜けで広々としたスペースには雑然とデスクや器具が並び、書類と人間が混在していて、おもちゃ箱をひっくりかえしたようだと思ったことを覚えている。



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