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思い出す、ランタンの明滅に白磁の肌が浮かび上がっていて、夜陰頬を膨らませて飴をころころと頬張るその少女は、吟味するように白い指先を頬に当てていた。その大きな双眸が口の中の物を味わう毎にゆっくりと細められていく。
レモンキャンディーはお気に召したようだ。

「そっか、それはよかったな」

こくん。
小さく頷く。
そうか、そうか。リーバーは小さな子にそうする様に小さな頭に手を伸ばす。
大人の手になれた子は、少し肩を竦めて温もりを待つ。しかし、何を怖がることなく、じいっと近くなる掌を凝視する。怖がるわけでなく、怯えるわけでなく。
二三回額を丹念に撫でる。
じいと双眸がリーバーを飽くなく見上げている、リーバーはん?と物言いたげな顔に聞いた。しかし、答えは返ってこなかった。
先ほどから、黙ってばかりで、口がきけないのか、それともきく気がないのか。
頑是ない子供に、礼節や仔細を説明する義務をリーバーは求めてはいない。
不思議な存在感を放つ子供。端もいかない子供が、この黒の教団にいること自体が仔細あってのことだと言う証明だ。一たび神の玩具に魅入られたなら、子供老人問わずどんな身分の物でも戦争の駒になる。
いや、今はそんなことは考えないでおこう。今彼女の過去をあれこれ想像して、壁を作るより今はありのままに接してあげた方がこの子の為だ。
その少女は期待に満ちた目でリーバーに二つ目と三つ目の催促をした。
その時の可愛らしい、喜をめいっぱい表現するその顔がとても愛しい。


ハン上司はリーバーの話を聞くと明らかにテンションが駄々下がりになっている。
「なんだ、噂何てそんなもんすよね、つまんね。
あ、でも、子供ってことは、その子エクソシストだね」
「まあ、そういうことになるでしょうね。なんか怪我しているみたいでしたし」
ハンは瓶に手を突っ込みながら、くびをかたむける。
「でも、おかしいすねえ。東洋人の、女の子?リナリーちゃんは今は動ける状態じゃないし、そんな子エクソシストに居たかなあ」







ふと、リーバーは顔を上げた。
卓で腕を枕にして、眠り込んでしまっていたようだ。書室の隅、大きく伸びをして、凝り固まった体を伸ばす。その際背骨からばきばきと嫌な音がした。
ひと眠りしたことで大分体が楽になっている。腕時計は明け方近くを指しており、もう此の儘ベッドで寝てしまおうと、散乱させた道具等をかき集めて、ファイルケースに詰め込む。
期限を設けられている訳ではないのだが、芳しい結果を残せないでいることに、リーバーは焦りを感じていた。日夜、考え込む日々が続く。時間だけが唯々過ぎていく。自分が、取るに足らない人間のように思えてくる。
いけないいけない。リーバーは自分に活を入れる。
考えすぎると、碌なことがない。思考は停滞して、同じ所をぐるぐると回って、そういう時分は決まって良いアイディアなど涌いてこないものだ。
今日は寝てしまおう、と自室に急ぐ。長い回廊をリーバーの足音が、かつんかつんと硬質な音を立てている。時折すれ違う、団員たちが、リーバーの隅を入れた様な隈を見て、笑ったり、本気で心配したりした。
そして、決まって、人通りの少なくなったとき、その少女は現れるのだ。

「どうした?」

思わず小さな横顔に声を掛けえてしまったのは、その横顔が、げっそりと顔色を無くし、青白く発行しているように感じてしまったからだ。
先日の少女だと言うことに後から気がつき、リーバーが近づくと気配には初めて気が行ったという感じで、少し、怯えた顔をした、可愛らしい顔が、外套から覗いた。

「具合でも、悪いのか」

少女は懸命に首を横に振るが、青白い顔をして、それを信用しろと言う方が無理だ。
抱えると、ぐったりして体重をそのまま預け、体温が心なしか冷たかった。医務室はここから少し距離があった。即座に、その少女を荷物と一著に抱えて、自分の部屋に直行することを選択したのである。





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