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「はい却下―」「ぶっぶーやり直し」「もう少しがんばりましょう」
立ちはだかる壁は高い。
乗り越える壁は高ければ高いほどと先人は謳うが、困難に直面し苦悩している者にとっては何を無責任なことを言いやがって、である。
自らを鼓舞し、これぞというもの厳選して提出するも、ダメだの一点張りでその場でリーバーの苦労を突き返される。釈然としなささを感じつつも、その度に自分の凡庸さを突き付けられたようだ。刃の一太刀一太刀を真面目なリーバーの自尊心を削っていった。
日に日に覇気のなくなっていくリーバーを心配しつつも、「あの糞巻き毛室長」だの「シスコンが」、大体の事情は察せられたので、仲間たちは皆放っておくことにした。
君のは優等生すぎるんだよねえ、がコムイのいつもの指摘である。
範疇を出ていない。これはととびぬけた物がない。
私情は極力持ち込まないたちだったので、彼らのサポートに当てた仕事のクオリティは意地でも落とさなかったし、献身的に彼らの仕事をバックアップすることを惜しまなかった。その主役とやらに自分がなれるかが今に掛かっているのだ。
書室に籠る日々が続き、卓で一人、頭を抱えた。

「ウェンハム!最近頑張ってるらしいすね」

「あーハンさん…」

「すごい隈すねえ、ウェンハム、君が図書室の主に成る気じゃないかってみんな噂してるよ」

「いやあ……」返事もお座なりになると言うものだ。
ハン上司が言う通り、目は充血、隈は赤黒くリーバーの目の下に沈着してしまっていた。自室、部屋にも不帰、普段の雑務と合わせて、書室に入りびたりと不摂生な生活を送っている。
自分のデスクで、余りにも頭が回らないため、三十分アラームをセットして沈没していたリーバーにハン上司はHAHAHAと背中をばしばし叩く。
今日は何時になく絶好調である。

「何かあったんすか、今日ご機嫌ですね」

「いやあ、食堂給仕のミリアからデートのお許しがやっと出たんすよ!」

「ハンさんって、マリアさん狙ってたんじゃないんですか」

「それはそれ、これはこれ。高嶺の花はいつも心の中にってね」

気が多いのもほどほどにしないといつか刺されるぞ。
強めに叩かれた背中をさすりながら、機嫌のよいハン上司を見送る。アラームを確かめると残りあと五分。
無駄に起こされて、全然休むことが出来なかった。
しぶしぶ体を起こして、書類ついでに解析データの入ったフロッピーを班長に届けに行く。
豪快に仕事を着々熟していたノリッジ班長の頭頂部をみて、毛根ってストレスでダメになるのかな、と我が未来を想像して怖気が走った。
大変失礼なことをふらふらした体を抱えて、ぼんやり思い、後頭部をまるで呪いでも掛けるが如く凝視し続け、班長の仕事の区切りがつくまで待つ。
その呪詛が通じたか、はっと両手を頭にやって、そのままのにこやかな笑顔で、

「なんだい、ウェンハム。何かようかい」


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