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異国の国とはどの様なものかしら。
異邦人の話は興味が尽きない。
本来ならば一年先まで奇跡を望む民衆が巫女のご尊顔を拝める日を指折りにしているのだが、「漆黒の殉教者」とやらは宮司らと何らかの確約を交わし、優先して巫女の間へと通された。
桜子は知らぬ果ての空の下、遠い遠い倫敦の街に思いを巡らせた。
この古来から神のおわす大和の国の、海を越え波の向こうには、桜子の想像もつかない新天地。まず、桜子は海を知らない。海とは、水の塊である。与えられた数少ない書物の中の物語を総合するとそういうものらしい、下賤の知識は邪な物を呼ぶと厳しい情報統制下に置かれる巫女には、厳しい検閲を重ねた書物のみ閲覧しか与えられない。
沢山の水は溢れてしまわないのかしら。そんなに沢山の水をとどめておくには相当大きな桶が必要になるのだと思うのだが、その桶は誰が作るのか。異邦人は、桶は必要ありません、と静かにウミ、がなんであるかを桜子の興味飽くまで語った。海は有るもの、この私達の立つ地と同じく広がっていろもの。その向こうの「黒の殉教者」共の住む土地に繋がり、そこには桜子の仕える神とは別の神がおわすと。彼らはその神に仕える信仰者だと。桜子は早速彼らの唯一神に興味を持った。
「其れはどんな形をしていますか」
「それは、人それぞれ、心によって違うよ」
「唯一の神であるのに、形は各々異なるの」
桜子は小さな胸を驚きにときめかせる。彼らの胸にある唯一神の姿を桜子は心で描いてみせたらしかった。そして確かに見た。神々しいまでの光を纏い微笑を湛え桜子を見下ろす聖母の姿を。
「私が見たお姿が貴方がたのおかみであらせられるのね」
ああ、なんて、優しく、柔らかく、己を包んでくれる魅惑の神よ。
繋がれた己が身にも平等に、心と痛んだ身体を癒して。
『黒の教団』なる輩の男の海の彼方におわすかの人の話に桜子は陶酔し、受け取った



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