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宴もたけなわ、ルッスーリアさんは散々私を誉めそやし、いい気分にさせた後、精緻な柱時計の音を契機に席を立ってしまった。楽しい時間が如何に早く過ぎるかを思い知らせる、忌々しい時計である。つまんないの。賑やかな御客人が去ってしまった後は、この重厚な屋敷事態が息を顰めてがらんどうになってしまったような、そんな錯覚を引き起こす。そもそも、人が少ないのは元より、これは私の感じ方で、元々大勢家族だった私の周りには笑いが絶えずいつも頼まれなくても誰かがそばにいた。その環境から、一気に一人遊びの必要な寂しい部屋の片隅へと追いやられたのだ。人寂しくなるに決まっている。其れで、何時も時間を多く過ごしているメイドの美人さんも無口と来ている。元々私は人の好意には敏感で、周囲の観察力に長けざるをえなかった。悲しきかなこの処世術は、私を愛想のよい世渡り上手な愛娘へと本来の五割増し、いや十割増しの人間的評価を獲得してきた訳で。所作さえ気を付けてにっこり何もわかってないフリして微笑んでおけば、年齢と境遇が相まって私の見方をしてくれた。それが私にとって良かったことなのか、そうなのかはさておいて、私は何処までも可愛らしくショーケースの中で澄まして微笑んでいるピスクドール同然だったのである。
「気持ち悪い笑い方をするガキ」
そう唾棄した虫でも見る様な目付き。心の何処かに亀裂の走る音がした。衷心を見透かされたような気分になって羞恥で頬は高揚し、背中に冷たい汗が一筋流れた。
「人をだまくらかして、自分を偽って。ガキが一丁前に、分かった顔してんじゃねえ。
ガキなら、ガキやってろ、胸糞わりい」
熱い血潮が、通う。今まで凍っていたのではないかと思うほどの心の震えたその瞬間が。正面から外れた後姿からの見える私の無意味な水面下のバタ足は滑稽だっただろう。上手くやっているつもりだったのだ。馬鹿にされた。見破られてしまった。その時、私はゼロになったと同時に、何かから解き放たれた気がしたのだ。
何度も何度も繰り返し、しつこく食い下がった。身分も迷惑も全部承知で、でも止まらなかった。罵られる度、困惑の表情で私を邪険にする程、心は傾倒していった。
更に、侮蔑の瞳に別の意味合いの感情が含まれていることを感じ取った時、それは別の快感へと変わった。
「何を気にしてるんだか」
私は気に入らない。
私へのご機嫌取りはいつも、的を得ていて少し的外れ。キッチリしすぎる性格は気まずさから、自分以外が賄える何か。引きづり出した癖に、真正面から目を逸らす。少しずるい。
思った方が、負け。身を持って知っている私。よって私に権利がある。このいびつな繋がりは、私にこそ勝負をする前から軍配が上がってる。敗者は完膚なきまでに、利用し利用され、何処までも何もかもをささげる。楽しい。楽しすぎる。弄ぶこと味わい汁まで啜る事を当然の権利として許されている。其れを快感として、生きていく糧として享受する。
―――――だって、強者は気持ちいいから。
こんな愛娘は愛されない。体から染み出た毒を無自覚に嗅ぎ取って、多分離れて行った。
ねじ曲がり、膨れ上がり、心まで凍らせた、私を見つけてくれた唯一。
太陽に恋い焦がれる馬鹿な私ごと、どうかその激情を籠らせた瞳で私を思って。
だから、私は許す。私をどうしようと、その腕で首をへし折ってくれても好きに使ってくれて構わない。分不相応な殉教に準じる私をどうか、どうか、あなただけは私を見つめてほしいのに。


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