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『お客様』は「ラプンツェルの小窓」から「囚われの姫」にお目見えする。
その例えは今日のご来客の人が発端である。姫などがらではないが、籠の中でしか自由を許されない可哀そうな女の子、と言う境遇が寓話のラプンツェルにそっくりでしょう、と言うのである。私はそのおとぎ話をよく存じてないが、高い塔に養い親の魔女を招くために自分の長い髪を塔の外に垂らすのだそうだ。その例えだと、悪い魔女は、私を閉じ込めているスクアーロさんで、長い髪は私の退屈、じゃあお姫様を助けるヒーローはいったい誰だろう。
私がそのドレスに倣って清楚な振る舞いでカウチに腰を落ち着けて、「ごきげんよう」と頬を綻ばせると、「あら、ごきげんようお姫様」と女より女らしい仕草で、体を撓らせる。そう、彼女は歴とした男なのである。「いつものお遊び?あたしも仲間に加えてもらってよろしくって?」「もちろん、あなたなら大歓迎よお姉さま」「では、しつれい?今日は何して、お遊びしましょうか?」「花札?」「絵合わせ」「おはじき、それともメンコ」「ポッペン吹きましょうよ」「待って待って、その前に、あなたが気に入ると思ってあまあいアイスクリイムを持ってきたのよ」「マア、うれしい。良くってよ、私も飛切りのお紅茶を入れるワ。一緒に召しあがりましょう?」「良いわねえ、楽しくなって来たわ」「フフフフ」
「ゆいちゃんってば、楽しい。乗せるのがうまいんだから。お遊びはお気に召した?」
「ルッスーリアさんだって、ノリノリだったじゃないですか。即席の要求にも柔軟に太陽出来る、流石、女性の鏡ですね」
「いやん、べた褒めじゃないの。ゆいちゃんぐらいよ、ちゃあんと私のツボを理解してくれるの」
「ルッスーリアさんぐらいですよ、私の遊びに付き合ってくれるの」
ねえ、と互いに声を可愛らしく重複させた。因みにアイスクリームは本当だから、後で食べてねと言われた。ルッスーリアさんは手の届かないところに良く気の付く人だ。
ルッスーリアさんは、男に人だけど、女の人である。これが私の認識。サングラス掛けて、モヒカンでそのモヒカンが虹色で、筋肉隆々の素晴らしいスタイルをお持ちだが、心は列記とした女性である。あの精鋭部隊ヴァリアーの幹部で、同じくヴァリアーのスクアーロさんの悩みの種二号。私の前ではユーモアを忘れない言葉遊びを楽しんで、おしとやかなお喋り仲間の位置付けになっているが、私を囲うスクアーロさんの数々の愚痴から推察するに、飛び出た見た目に相違なく、奇怪で破天荒な振る舞いも少なくないらしい。因みに一号はまた別にいる。調停役を勝手出ることも多く、多分、全て計算付くでやっているのかと思えるのがルッスーリアさんの侮れないところである。本人いわく「おもしろいから」。スクアーロさんが聞いたら湯気でも立ちそうなぐらい怒り狂うだろうセリフだ。
ルッスーリアさんは状況を楽しむからこそ価値がある。ルッスーリアさんは、面白可笑しいことが、とても、とても、大好物なのだ。今の所、態々此処宅に訪問すると言うことは、私はまだ、彼女のお眼鏡には『娯楽』として、価値があるらしい。ルッスーリアさんの目が猫の瞳のように鋭く光る。私は、迫られているのだ、と。暇、は人を殺す。全く恐ろしい。平凡な女史を命がけの綱渡りに興じさせてしまうのだから。
私は、布巾で口を拭い、声を潜めると、目を爛々と輝かせて私の話に耳をそばだてた。
「ゆいちゃんとあたしの仲じゃない、ま、協力するかは、お話次第だけどねん」
神妙にゆっくりと分かり易いように言葉を選んだ。段階を経るごとに、ルースリアさんの頬が緩み始め、結末に辿り着くと、終いには腹を抱えて笑い出した。肩を揺らし、つやつやの唇を突きだす、高笑いで。
「さいっこうじゃない!ゆいちゃんはよくこんなこと思いつくわよねぇ。
勿体ないわ、ゆいちゃんは暗殺の職業に興味はない?」
から笑で光栄な申し出をかわした。私の計画が相当お気に召したらしい。勿論冗談だろ思うが―――――興味を持たれ過ぎるのも問題である。
「そうよね、恨まれちゃうのは御免だわ」
何か言うべきかと思ったが、しかし、その視線は蜜を求める蝶のようにひらひらと飛び立っていった。



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