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退屈は人を殺す。良くいったものだと思う。この趣味の悪いやたら装飾が豪奢なこのだだっ広い一部屋のみで私の生活は事足りてしまう。許されているわがままは、もっと綺麗な服が着たい、もっと装飾品を豪勢に、もっと美味しいハーブティーが飲みたいわ。大抵の物欲は満たされてしまう私の四次元ポケット、唯一夕食の時間だけが絶対厳守の私を縛る約束事だった。しかし私は毎日着る服なんてモノトーンの二束三文で手に入るパンツとワイシャツだけで十分だし、ズボンはなるべく伸縮性があって動きやすいものが好ましい。料理の上手い不味いなんて私の庶民の舌には判断がつかないし、時々思い出される醤油やみその香ばしさも一時満たされてしまえばサイクルがくるまで食べれれば何でもいいと思っている。精緻な趣向を凝らした模様の入っている陶器は使うのに神経を使ってしまうので、なるべく触れたくない。なんて、お金のかけがえなのない。貴方はそれらを望むべき地位に居ると言うのに、何が不満なのだ。私の物欲に対する無頓着が勘に障るらしく、個人的嘲笑を向けられた事星の数だったが、欲しくないものは欲しくない。でも、私にも欲がないわけではもちろんない。唯、私は人と過程が少し違って、幸せの価値の形が少し人と離れていた。
勉強が好きだった。諸事象により、私は日本の高校を辞めてしまったので、高校の教科書を引っ張り出しては本来歩むはずだった平凡な道、一端の女子高生で学校行って、勉強をして、学校帰りに友達と近所の美味しいアイスクリーム屋さんに寄り道して帰る。なんてことない想像に妄想を膨らませて、一人コツコツ机に向かっている時間が私の中で最高の玩具の時間だった。楽しかっただろうか。勉強はやっぱり難しかっただろう。伊語は習得するのに血のにじむような努力をしなければならなかったから、多分、容量悪い私は習得するのに相当な時間を費やしたはずだ。分からない所は、友達や部活のセンパイに教えてもらって、もしかして、カッコいい男の子とそれがきっかけで恋におちちゃったりして。
妄想に耽るには、十分すぎるほど、時間はたっぷりあった。そして、夢から帰った時、手に入れると色あせて見えてしまうプレゼントを掌に乗っけて、はて、自分はコレの何が良かったんだろう。何でこんなにこれが欲しいと思っていたんだろう。と我に返ってしまうように、途方に暮れてしまうのである。
私の傍らには、主に、美人で、氷のオーラを纏った精巧なドールのようなメイドが一人、優美に従来のあのひらひらのエプロンドレスに身を纏って、そそと私を監視していた。
多分二十代の、十分に若いが、私よりずっと面立ちが大人な雰囲気の。
私は彼女の名前を知らない。一度聞いてみたことがあるが、一瞥で私を黙殺して朝餉の片づけに戻ってしまった。彼女はつやつやと輝く黄金色の髪を一つに束ね、何時も同じ細かい細工の施された高そうなバレッタで止めていた。
「ゆい様、お客様がお見えです」
「お客さん?スクアーロさんではなくて?」
「待合室でお待ちですので、早急にこれをお召しください」
腕に持たせられるは余所行きの如何にも高そうなシンプルなワンピース。特別な来客にはいつもめかし込まなければならない。そのお客様の種類は千差万別。その来客こそ、私の退屈を癒してくれる人か、話し相手になってくれる人か、攻めて怖そうな人じゃありませんように、と丸で祈る気持ちでいそいそと髪のセットとメイクを済ませる。
「少し、大人っぽすぎやしませんか」
黒のAラインにアクセントとして、胸から裾へ小さな花のコサージュが流れるようにちりばめられていた。真っ黒、と言うことで、自分の見た目の幼さもよく承知している私には、自分がちぐはぐな格好をしているのではないかとすごく不安だったのだ。
姿見で自分の姿を吟味して、パンプスをクローゼットから引っ張り出しているメイドに問うてみたが、この時も全くの無視だった。これで、私の暇つぶしの相手が勤まるはずがなかった。必要以上何もしゃべらず、黙々と目の前の仕事に従事するのが彼らの仕事であろうが、少しはリップサービスの出来る話好きな人を寄越してくれてもいいんじゃないかと思う。その点、この『お客様』は私にとって、とても愉快な出来事なのだ。私の部屋を出入りする人はそろって、無口でユーモアを介さない味の足りない人立ちばかりなのだ。



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