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はあとかふうとか。蜂蜜いろの所々禿げた真鍮のドアノブが私を固く閉じ込めている。ドアノックハンドルが内側に着いてるのかこの洋館を設計した人物に是非に問いたい。ここは元はどんな用途のお部屋だったのでしょうか。何にせよ、穴が開くほど睨んで見てもその向こうにあるであろうスクアーロさんの後ろ姿が透けて見えるわけでもない。私の憂鬱を、どうしようもない退屈がぐちゃぐちゃと私の心をかき混ぜて、よくわからない何処にぶつけてよいか分からないイライラを拳を壁に叩きつけることでどうにか抑えた。ムカつくムカつくムカつく。
一日中ここに居て頭が如何にかなりそう。日光を浴びずに籠った生活をしているから日に日に肌が青白く光り始めている。頭を掻く。息をする。ご飯を食べる。何もかも。窮屈で窮屈でしょうがない。気が狂う一歩手前の自覚はあるのに、私はそれを訴えれない。現場に満足して妥協する事に慣れ切った所為だ。そうやって飼い殺しされてきた所為だ。一日に一回のこの晩餐会が私の生活のよすがになっている。人と喋ることに飢えている。私のこの鬱屈の直接の原因であるあの肉食獣に平伏している自分に腹が立つ。
だって今、私と言葉を交わしてくれるのはどんなに嫌がったて彼しかいないのだ。
私の服や食事やらの世話を請け負うメイドは無表情で己の業務をただ淡々と熟すのみだから、私は1日の多くをそのメイドと過ごす癖に名前を知らなかった。
私の中で怒ってる出来事は所詮私のみに関係するもので、誰も興味ないだろう。そう思っていたから、だから、驚いた。

「ご飯と……お味噌汁……」
ほかほかご飯と熱いお豆腐とワカメのお味噌汁。漆塗りのピカピカのお箸が行儀良く、西洋のお城のテーブルの上で陳列していたのである。
私はスクアーロさんと、そして夢にまで見た食卓を何回も見比べた。じゅわあと食欲が湧いてきて、恥も外聞もなくそれらをかっ込んだ。美味しい。お米のみずみずしさとお味噌の薫り。
スクアーロさんは食卓につき、危なげない箸使いでご飯を口に入れていた。
不覚にもちょっぴり目が潤んだ。慌てて瞬きをして、ばれてないよね、と確かめる為に向かい側を密かに伺った。涼しい顔で味噌汁をかき混ぜている。その日は釈然としない気分で床に就くことになった。

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