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毘沙門さまの所から戻って幾日か。
夜卜さんの新しい神器の雪音君とは、一緒に居る時間が自然に増え、仲良く成るのに時間は掛からなかった。
雪音君は絶賛神器の修行中で、夜卜さんが初めての真っ新の神器だった。雪音くんは夜卜さんの神器に成った経緯を教えてくれた。そして、夜卜さんとひよりちゃんの関係も。ひよりちゃんは「体を落とす体質」をなおしてほしくて夜卜さんに依頼しているらしい。

雪音君は私とは違って、依頼を熟す上、頻繁に器になって夜卜さんを助けているようであったから、神器になった時期が私より遅いのに私より先輩で経験豊富だ。
雪音君に先輩だね、と言ったら、そんなことないですよと照れた顔で謙遜してたけど、一度見せてもらった白刃は恐ろしく美しかった。
付く神様によって神器の遣り方は違うと聞くし、毘沙門さんのところで書物の知識ばかり詰め込んでいても、実践に勝る知識はない。私は自分と近い神器仲間が出来たのが嬉しくて、色々質問してみた。妖を切る感覚だとか、獲物と見る境界の見極め方とか。雪音くんは少し気はずかしそうに質問に律儀に答えて言ったが、疑問だったあるソレを気兼ねなく口にしてみると、雪音くんは、ぼっとやかんが沸騰したみたいに顔を赤くした。

「は?!」

「え、だから、雪音くんは夜卜さんに呼ばれた時、」

「言いなおさなくていいです、聞こえてましたから!」

店番をしていたエプロン姿の雪音くんは、何故だか顔を真っ赤にしてわたわたとお玉を振り回してる。
首を捻った。何処にそんな慌てる要素があったのか見当がつかなかったからだ。
雪音くんは絶賛お店のお手伝い中だけど、店番と言ってもこの寒さのせいか、お客さんは今の所ゼロだ。大黒さんは半分酔狂だって言ってたけどこの店の採算が気になってしまう。
変な事言ったかしら、と品出しに向かおうとすると、
「一凛、さん、何の話をしてるんですか!」
「え、ひよりちゃん?どうしてここに」
半妖姿のひよりちゃんが登場。
長い尻尾がぴんと張っている。人間になったり、半妖になったり、融通が利くらしい。
半妖は妖達の恰好の餌に成ってしまうらしいのにほいほい体を置いてきて大丈夫なのかな。
詳しくは知らないけど、『身体を良く落とす』体質に成ってしまったお陰で普通なら『気が付かない存在』の私達のような彼岸の人達との記憶もちゃんと残っているらしい。

ひよりちゃんはとても気立てが良くて、礼儀正しく、ご両親に大切に育てられた子なんだな、と分かる。
もう雪音くんは割り切っている様だけど、ひよりちゃんは私達には望めないものをいっぱい持っていて、其れを当たり前に享受出来る立場にある。
真喩さんの勤めている天神さまの神器の一人は永遠に付きまとうであろうこの厄介な煩悶に捕まって、主を刺し破門になったと聞いた。
その話を聞いたのは天神さまにご挨拶に行った時だった。天神さまは釈を顎に当てながら「君が彼の方の神器ねぇ…」とまるで品定めをする様に私を吟味した。うんうんとなんどもうなずいたり、私に暮らし向きを訪ねたりした。
天神さまは今まで会った神様なかではお年を召された神様で、落ち着いた話し方をした。しかし私を驚かせたのは、見た目は彼岸の者には関係ないとは言え、何を隠そうあのヒルコさんに畏怖と敬意を示している事だった。
「気負わず、頑張りなさい」と至極真っ当な励ましの言葉を頂き、それっきりで夜卜さんと何か話し込んでいた。天満宮を後にし、帰りは夜卜さんは深刻そうな顔をしていた。
私はというと、今の生活に割かし満足しているからなのか、それとも、元々生前でも生には執着を感じていなかったのか、雪音くんの禊の色々を聞いてもさほど心を動かされなかったのが幸いだった。


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