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ーーーーーー、


「………、…?」



あれ……?


私どうしてこんな所に??


あれ?


そうだ。


誰かが、来た。


そこへ行きなさいと、私の何かが。


「………??」

なんで?

頭をどう捻っても、記憶がふっつりと途切れてる。私って本当にちょっとぼっとしているよな、多方面の方に何でか心配されてしまうのはあんまりその事を深刻に考えてないならかしら。
作りは見知った回廊だけど、何だかジメジメしていて薄暗かった。人の気配もない。なんでこんなとこ来たんだろう。
ぶるり、と肩を震わせ、向いた先に窓が有ったから、此処の辺りぐらいは付けられるだろうと思って留め具に手を伸ばした、その時、ドンドンドンと激しく何かを叩く音。

「え」

び、吃驚した。一体何事?!硬直したまま首だけを後ろに向けた。けれど、二度目はなく、音の元も判然としない。心臓が飛び出るかと思った。二度と鼓動する事のない胸を押さえて、辺りはそれ以降しんとしたままだったから、暫く辺りを注意深く確認したが、心が何時迄も安らがない。
暗いのが嫌。
取り越し苦労だと頭では分かってても、シルクのカーテンの陰影に化け物を見てしまう。視界の届かない向こうの暗闇に口を開けて待っている妖どもが私を狙ってる。そんな空想が頭を占めて私を震え上がらせる。その度今、頼れる者はいないんだ、自分の中で解決しなきゃいけないんだ、とそれはなんて言う心細さだろう。消えてなくなりたいとすら思う。薄暗い回廊から抜け出せば、だれか居るかしら。兎も角、誰かに会って道を教えて貰わないと。

ドンドンドンドン、

「ひっ」

手探りで音の方に向かうと、冷たい真鍮のノブを掴むことが出来た。
音はこと壁のむこうらしい。
試しなどうかしましたかと声をかけてみた。音はやまない。頭を壁にくっ付けて、耳を澄ませてみる。

「おーーしまーー!!!
か、ーーさんー!!、ねが、」

今度は微かな声。声は、開けてって、そう言ってる。どうしよう、やっぱり一回だれか読んできたほうが。
念のためガチャガチャとノブを回す。
結果、扉に鍵はかかっていなかった。その扉は外開きだったようで、体重を半分かけていた私は、流れるままで勢い余って体ごと扉の外側へと持って行かれてしまった。
わ、と叫ぶ間に遠心力にグルンと上半身が前のめりに、両足はお留守。清涼な風を一瞬体に浴びる。空気が一変。眼下に掠めた嫌な予感ままに、私は下まで転げ落ちた。下は痛そうな石段。

耳に届いた、かすかなしんしんしん、と虫の鳴き声。大の字になって地面に寝転がっている。よかった、私死んでて。頭を肘は何処かにぶつけたみたいで死ぬほど痛いけど、動けない程じゃない。
とりあえず、起きて状況を確認しよう。もう、何が何だか。
一難は去ったと閉じていた瞼を開いて、飛び込んだ光景。
開けた空には満点の星空。雲が薄くかかる半月。何もかもがどうでも良くなってしまうような。
美しいものに感動する心は何ら変わらないつもりなんだけど。何だか達観した気持ちになるのは、息をしていないからなのかな、とか。雑多した無秩序な感覚。多分、ここは下界。どうやって外に出てこれたのか、多分あの扉がここにつながっていたのだと思う。
『お嬢さんの大切なもの、みつかるといいねえ』
何故か一度しか会っていない、皺くちゃの笑顔を思い出した。
頭を打った所為かいろいろな記憶が交錯する。手を伸ばしても、届くことなく空をつかむ。

「……、かえろ」

おもむろに立ち上がって、白衣についた砂を叩き落とした。白地なので念入りに叩く。早く帰ろう。そして、陸先生に今日の分の薬を貰おうかな。まだもらっていない。

「痛った……」

「…え」

声の方、階段終わりの向こうに、投げ出された肢体があった。

「わ、わ、ごめんなさい!」

其れが人だと解って慌てて飛びのく。
もしかして、なんかちょっと石にしてはやわらかいなと思ったけど、私の所為?!

「ごめんなさい、大丈夫ですか?」

二段飛ばしで、駆け寄る。その子を助け起こすと、それは華奢な女の子の形をしていた。発育途上の目鼻立ちのはっきりした幼さの残る顔がゆっくりと面をあげて、私を見返す。長い髪が緑罹る黒髪。咄嗟に支えた肩は細く柔らかかった。
そして、寒空に透明な空気。
季節はいつの間に秋に巡ってた。
振り返れば、見たことのある旗と立派な拝殿が構えてあった。下は急な石段。あそこから落ちたのか…。

暗くてそこまではっきりしない、体当たりした女の子はセーラ服にプリーツスカートの出で立ちで、裾が少しめくれ上がっている。
暫く何が起こったかわからなかった様でぼんやり虚空を見つめていたが、私の顔を認識するとはっとした顔になる。

「もしかして、ずっと叫んでいたのはあなた?」

そのタイミングを見計らって声を掛けてみた。だとしたらこの女子中学生が私が目指していた子なのかしら。
それより、この子は何なのかな。
人間とも妖ともつなかい中途半端な気配がする。妖の気配なのに、無性に心に惹かれる。
これが死霊というものなのか、勝手な憶測を巡らせて女の子を観察していると其れを他所に腕を力強く掴まれ、この細い腕の何処にこんな力が有ったのかと思うくらいに力が強く、痛い。

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