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昼下がりの陽光、そこかしこに人の気配。楽しそうな複数の声。
それらがうっすら耳に入るのみで、回廊の向こうに人の足音はしない。

白日、白っぽい光が地面に伸びている。

対比して、覆う真っ黒な影が、私の体を交互に通り過ぎて行った。
薄い膜越しに見るように、緩やかに、時間が流れている。
外で上がる笑い声が、丸で遠くの出来事の様に私から外れた所にあった。

ココは、そんな場所。

綺麗だ、と感動したのは、心が揺れた時は、何が楽しくて笑ってる。
果たして本当に心の底から楽しいと思っているのかしら。

コツリ、靴底が鳴った。

一人。朱に入った白。

喜びを感じたのはいつ。

透明無味の皮膜の向こう側。

空々しく感じてしまうのは何故かしら。
私達は何故有るのかしら。

初めの違和感。
ココの人は和やかな笑顔を絶やさずに、御為(おんため)と献身し、自らの意味を見出し、薄ら笑いが気味が悪い。
私が、異常なのかしら。恣意的に定められた敬愛には価値がないと思ってしまうのは。

唯一味方の鈴巴(すずは)くん。
今日も、花瓶の花を美しく切り出して活けていた。
「うん、今日もとってもきれいですね。鈴巴くんは私の憩いです」
「ああ、今日は見事な極楽鳥化と沢の向こうに水仙を見つけてもらってきたんだ。折角なってるのを摘み取るのは申し訳なかったけど、いいって言ってくれたんだ。
大切な人の為に活けてくれよって」
「あの、鈴巴くんは、植物とお話出来るんですよね。どんなことをお話するんですか?」
「何って、明確な会話が出来るわけじゃないよ。感じるんだ、嬉しいとか、寂しいとか……」
小さな少年の体で、長年に渡りここにお仕えしていた彼。見た目よりずっと精神的に大人。他とは一歩置く私を、許容してくれる懐の温かさ。
当たり前を受け入れる事を、強要してこない。

「そうかも知れない、な」
鈴巴くんは、頷いてくれて、仲間が出来たみたいで私はとっても嬉しくって。
「オレも、最近何でここにいるのか、不思議に感じることがあるよ」
「陸先生、最近オレを呼ばなくなったな…、家族が増えたらそれが当たり前なんだろーけど。家族が増えるのは、嫌じゃないんだ。だけど、オレの、オレは、何の意味があるのかな」
鈴巴くんは、増してここの所元気がなくなった。
私が「兆し」を齎したからだと誰かが言った。
穢れの「神器」は、魔をまき散らすのだそうだ。
また、私は一人。
果たして、私には何の意味があるのかしら。



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