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先程怪我をさせてしまった浅黒い肌の男性の赤い火傷の跡がチラついてしまった。その逡巡が仇となり、何かよくわからない術で簡単に捕縛をされてしまった。式が何枚も上手の複数対では勝ち目があるはずも無なかった。
直様座敷牢にぶち込まれ、身ぐるみ剥ぎ取られ、背中の「一」の一文字を奪われた挙句、傀儡のように自発的に地下まで歩かされて、開かれた潜り戸の奥に自分から収まった。
錠を掛ける音で体の自由は効く様になったが、何故か体の倦怠感は抜けず、私の唯一知る一線は全く効力を発揮しない。
「服、返して」
手元のこうしをガタガタと揺らす。黒塗りのこうしはうまい具合に手におさまらない。つるつると指から逃げる。
少ない持ち物の中の特に大切な物だ。
堅牢な牢屋に全身を叩きつけて、抗議を計った。与えられた白衣が血に染まり始めた時、格子窓に二人の人影が立つのが影で分かった。辛うじて全容を伺う限り、私を縛った眼鏡の若い男と、滑らかな金髪を背中に垂らした綺麗な綺麗な女の人が悠然と佇立して居る。
「貴様、ここを毘沙門天様の屋敷と知っての狼藉か」
男が言う。硬い声色で私に問う男を私は前かがみの体制から無理やり顔をそちらに向けてあらん力で男を睨み付けた。
「返せ…返せ」
「言葉を解さない獣に交渉の余地はない。
神妙に答えなければ、その身も危ういと思え」
「かえ、せ!かえして、わたしの、カエセ」
「病む程に怒りに我を忘れたか、ケダモノめ。下がって下さい、この者を大人しくさせる」
「いい、兆麻(かずま)」
一歩女は前へ出た。伸ばせばここから手の届く距離だ。眼鏡の青年は渋い顔だ。
「お前も主から名を貰い主人に侍る神器だろう」
金髪武人は跪いて格子越しに手を差し入れ、私の顎を救い上げた。
「お前の主の名前を名乗って貰おう」

私の大切なモノを穢した。ケシテユルシテハイケナイ。

「貴様!」
「っ!」
ソイツの綺麗な指を、キレイナキレイナユビヲクッテヤッタ。
わたしは、ワタシハワタシハ。
イタイ、イタイ、アタマ。
ワタシワタシ、ワタシ。
イタイイタイイタイ、ワタシ、ドウシテドウシテドウシテ。

「陸巴を連れてこい!クソ、呪が聞かない!」

「取り押さえろ!境界を引け、周りを囲むんだ!!」

ワタシハ。






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