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桃枝を左に握りしめ、それの示す方向へ私は進んでいった。
霧が段々と深くなり、辺りの情景が判然としなくなってきている。
暫し進んで行くと、遂に辺りは真っ暗になった。
目蓋閉じているのか、はて開いているのかわからない程の漆黒の様相を呈している。
繰り返し瞬きをし確認しなければならない程。


気が付いた時には道も、なにも自分の足元さえ覚束ない。我にかえってみれば途端に見えない先が心細く感じて、歯の根がガチガチと震え出した。
進退極まれり、ずううんと暗澹たる気分に落ち込んで恐怖感と戦う。



「っ………」

さらに一歩進むと、全くの不意打ちに息が詰まった。
右手は胸元に置いて、進行方向を探ることをしなかったので文字通りにもろに頭から何かに突っ込んでいた。
衝撃は少なかった。私の顔面を損なうことなく何かは柔らかく私の頭を受け止め、弾力を返す。
その何かを両手で掴んで引っ掻いた。パリパリパリ、とスベスベした、プラスチックの様な…ん、ビニール??
数歩下がると突き出してた肘がガンと壁に当たる。それに驚いて飛び退くと背中と頭を思いっきり殴打した。痛い。プルプルと激痛に身悶える。一旦落ち着いた所で、そのさっきの顔を受け止めてくれたビニールが、顔に纏わり付いて鬱陶しいのなんの。何これ、どういうこと?押しても除けても自分の体に跳ね返ってくる。向きになって投げやりにやればまた、右腕ぶつけた。暗いからいけないんだ。
やけになって暴れまわっていると益々腕や足や後頭部を私を囲っているらしい壁に殴打した…もう泣いてもいいでしょうか。

「みーつけたっ、次の鬼わぁー」

明るい声が壁越しに聞こえたと同時に、付いていた手の甲に光の筋が現れ、縦に伸び、大きくなっていく。
私を覗いていたのは、髪を背中まで垂らした幼い女の子の華奢な指。くるん、と好奇心に濡れた双眸がこちらを収める。こてん、と小さい小首を傾けた。

「あれぇ、お姉さん?」








「きゃああああ!!曲者!くせものよーーー!!!」

ど、う、し、て、こうなった!
女史の奇声が其処彼処に上がる。どよめきが感染して行く館内。この騒ぎの中心はこの私。
私は、いつの間にか、突然人様のクローゼットに収納されていたようである。

突然ひょっこり登場した不審者の登場。女児のほかに、その背後には状況がまだよくわかってない数人の男子女児のぽかんとした顔があった。
緊張の一瞬。
一人が私を指差して、口を開こうとした刹那、私は狭い場所から飛びだした。
明るい室内は少し閑散としている、カーペットの基調は赤だった。
それに気を取られている間もなく、部屋のドアに咄嗟に飛び付き、脇目も振らず脱兎のごとく走った。
外には長い回廊が伸びており、天井が高い。
明るい、ホワイトトーンの色調が広がっていて、そういえば出た部屋も赤い絨毯に部屋には花の形のランプが下がっていた。
豪奢で大げさ、とにかく、広い。
向うへ伸びた直線を走っていると、喧騒が遠くなってくる。
余裕がてできて走るいとまにあたりをつけてみる。
部屋が幾つもあって、何処に行けばいいのか玄関出口の所在すら怪しい。やっと行き止まりに突き当たったと思ったら右折するとまた廊下。其れをまたひた進む。
広大な果てない洋館の窓の外をチラと覗けば、広大な庭園が眼下に広がっている。何処ぞの金持ちの家だここは。
凡そ三階四階の高さ。なので、窓から飛び降りるのも無理そうだ。

取り敢えず、私は、何処かにあるはずの下る階段を探すことにした。
騒ぎは私の元を離れており、多分、ざっと見たところさっきは、女子供ばかりが私を見送っていた。其れが私の幸運だった。
何処かに隠れて出方を待った方が得策ではないだろうか。そう思って、歩幅を狭めて息を殺す。
内の一番突き当たり側の部屋を選んでノブを回した。


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