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変、変と八方から連呼される。まるで私が可笑しい人みたいじゃないか。
ちょっと気分が悪い。其れを言うならお喋りする植物こそありえないし奇妙奇天烈だ。
何か粗を探してやろうという魂胆で思いついた先で口に出してみたんだけれども、実際ありえない事じゃないか?何で私普通に話しているんだろう。私を馬鹿にしている植物に対等に敬意を払って話していたのが馬鹿らしくなってきた。
私が黙ってもお喋りな桃の木は、葉を鳴らす。

へん、へん。

だって。

だって。

道は一つしかないじゃない。

「えっ」

顔を勢いよく上げる。ざわめきが一瞬止まった。

「このまま、下に下ればいいんですか?」

せせら笑うように私の問に答える。

でも、むりよ。

そう、むり。

あなたは、むり。

ずうっとここにいるの。

えいえんに。
とこしえに。

「帰れない」

その言葉が最後通牒だった。じわじわと絶望感が胸に浸透する。どうしよう。

なかないで。

なかないで。

どうしたの、なにが悲しいの。

さわさわと頭上で梢が揺れる。

「もう、会えない、て」

だあれ、だあれ。

「私の………」

あれ。
わたし。
誰に会いたいんだけっけ。
なにがそんなに悲しいんだっけ。
馥郁の桃の香りを胸に一杯に吸い込んだ。
だんだん、何かが消えて行って。
何もかもがわからなくなって、それも疑問に感じなくなる。
甘い匂いがむせ返っている。

どこに、行きたいの。

何をしたいの。

「…行かなきゃ」

のろのろと腰を上げ、一歩一歩沢の方に寄って行く。
全身に満ちる何らかの使命感。

クス、クスクスクスクス

軽やかな囁きが私の背中に投げ掛けられる。

ーーおしえて、あげましょうか

しってる、しってる。

歩みが止まる。

おねがい、聞いてくれたら。





透明な沢の表面に両手を潜らせ、手ずから桃の根元に注ぐ。
近くに沢があるから水分が枯渇することは早々無いと思う。なのに何故こんなことを私に要求してきたのか、イマイチわからないかった。
桃の木が喜ぶままに、やけに水捌けのよい土に水を撒いていった。
ぽたぽたと指先から滴り落ちる水滴は粘質でガラス玉のごとくポロポロと零れて地面に着地する。
きゃらきゃらと桃は喜んでいる。
その喜び様に何だか嬉しくなってしまって、その楽しげな笑い声を聞きたくて十数メートルの距離を何度も何度も往復した。私の小さな両手では根元に着くまでに零れてしまって手を開くと殆ど水は残っていなかった。
其れでも桃はざわめく。
それは暫く続いた。

やくそく、やくそく。

小さく胸の前で諸手を広げると、淡い桃色の実の付いた枝が自ずとに折れ、私の手に落ちてきた。

目じるし。

かえしてね、

どうせ、また来るでしょう?






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