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「滅相もごぞいませんよう、わたくしめはただご報告申し上げただけでしてねぇ、まさかまさか大神さまのお連れまさとは夢にも思いませんでしだがねぇ」
「あの、報告、ってなんですか」
「あや!お知りにならない!大神さまは大層心を砕かれてお嬢さんをお探しに…」
「黙れ」
「ひいっ!!わたくしめは何も知りませんよ、何も言ってません」
「ヒルコさん?」
「アンタには関係ない」
「そうですよぉ、世の中には知らなくても、いや知らない方が良いことがたあくさんですからねぇ。それで安泰、わたくしも大神さまに叩かれない!円満円満、万事おおーけぃでござりましょ」
くるりと回ってばぁと両手を上げて声を張る。尻尾をふりふり、こおん、と鳴いた。そこは、狐仕様なのね。仕草がぬいぐるみみたいな容姿だから、動作が愛くるしい。
「あの、あの時は勝手に上がり込んで、すみませんでした。あと、ありがとうございました」
「いえいえぇ、わたくしは何にも。お嬢さんには大変良いものを頂きました」
「お賽銭、あれっぽっちじゃ足りなかったですよね」
夜卜さんが勝手にやったものだけど。
「違いますよぉ」
お狐さまはさぞおかしそうに犬歯を歯ぐきからのぞかせた。
「お嬢さんに頂いたのは誠の灯った言霊です」
「ことだま……?」
「言葉は体を成し、誠となる、と言います。お嬢さんが、わたくしのことを憂いて「悲しい」と云って下すった。お嬢さんの慈悲がわたくしめを!こんなに!元気に!」
差し出した指先を伝い、腕を登って私の首筋に顔を擦り付けるお狐さま。きゅうきゅうとないて私に親愛の情を示した。くすぐったい。
「覚えて置かれるとよろしゅうごさいますよぉ、魂の言の葉は真実になりまする。真実を嘘に、嘘を真実にしてしまう魔力があるんですなぁ、自覚はないでしょうがわたくしらは日々作用し作用されここにあるのでごさいます」
「作用し、作用され、ある」
「そうですよぉ、なので注意せねばなりません。何気ない言の葉にも何かしらの意思がある。特にあなたの頂いたそのお名前。くれぐれもお大事に、無闇やたらに名乗ってはいけない。特に、あの、白手ぬぐいの黒い」
「夜卜さん?」
ここでもまた、夜卜さんだ。
「あの穢れた神、その白刃の野良神器にゃきをつけなされや、わたくしには恐ろしゅうてですねぇ、まあ、大神さまがいらっしゃれば、大丈夫ですね!余計な心配ですよねぇ、」
その時、くん、と後ろに手首が引っ張られ、後ろによろめいた。犯人は背後の主に他ならず広い胸に体ごと預けることとなり、伸びてきた片腕がぎゅうと首あたりをコートする。言ったとおりだろう、とでも言いたいだろうか。唯、危機感云々とか何が悪いとかよくわからないから気をつけようが無いような気がする。神器殺しに野良さん、彼らは一体。
「そ、そういえば、土地神さまは、神器の方っていらっしゃらないですか」
「昔わねぇ、そんな余裕もごさいましたが、わたくしも今や独り身でぇ」
「そうですか」
それは残念だ。私が知っている神器は大黒さんだけで、黒器としては有能にならない事が世の中の為だと言う。多分これはイレギュラーな事で、器としても主の為に強くあろうと願うのが本来あるべきすがたなのだ。他の神器の方のお話を聞きたかったけど、それは今回は叶わないらしい。
「お役に立てませんで、申し訳ないですなぁ」
「い、いえ」
「おい」
ヒルコさんの低い声が促す。
「土地神、道を借りるぞ」
こおん、と一声鳴く。
「どうぞどうぞぉ、狭い所ですがお使い下さいまし」
ヒルコさんはぐいと私を引っ張る。
「はぐれるなよ、面倒だから」
「え」
「お嬢さん、失せ物、探し物等ごさいましたがわたくしめがお役に立てようと思いますよ、わたくしめは狐狢狸して土地神。この土地全体がわたくしの庭の如くでごさいますれば、時々会いにて下さいましょうや」
「はい、また遊びにきます!今度は油揚げをお土産に」
狐はぬいと目を細めて、獣の手を振った。次の瞬間、私は抗えない波に吸い込まれていた。

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