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縁側に洗濯物を干していると、それは、天からやってきた。

落ちてきた雑誌を拾い上げると表紙には「From 天」とデカデカと見出しが書いてある。
愛くるしい豚のキャラクターがこちらにむかってウインクしていた。
興味のおもむくままに中身をペラペラめくってみる。
中身はアルバイト求人と全く変わらず、募集要項が所狭(ところせま)しと掲載されている、神器対象の情報だと言う事を除けば求人情報誌みたいだった。

彼岸(ひがん)の世界もうつしよと似ている所が結構ある。

神器はどうやら、ずっと一人の主に仕えるわけでもないようで、どうやって神様は神器を募るのかと思ってたけど、こんな求人情報誌があるとは。

聞いたことが有るような名前もチラホラ散見する。
恵比寿、は七福神の一人、商売の神様だ。
他と見比べても、特に恵比寿の求人は群を抜いて待遇がよかったから目を引いた。
事細かに経歴不問、福利厚生、有休昇給制度、項目毎に記載されている。
前ページには特集が組まれていて、「就職活動のキモ!」とまあ、礼儀作法やら受けの良い質問答え方などが書いてある。
就職難がどうとか、受けのいい面接の基本、作法だとか、エントリーシートがどうとかがずらずらと並んでいた。
そして、ある欄に私の目は釘付けになる。



卓に叩きつけられた就職情報冊子に大黒さんを向かいに、小福さん、後ろに夜卜さんと三傑(さんけつ)がそろい踏みだ。
何だか剣呑(けんのん)な雰囲気なんだけど……、「あの」当事者であるはずの私は端っこで成り行きを見守る位置にいる。

こんなことになるんなら何も言わなきゃよかった……!!と思っても後の祭りである。
災難に見舞わられている私の主は三人に囲まれてとても不機嫌そうだった。

「だいたい、アンタら何なんだ。最近妙にオレに口出すな」

「お前独りの問題だったらな、俺は何も言わん。だけどな、一凛ちゃんは今やうちの子だ!一凛ちゃんの問題は俺の問題だ」

「入れ込むのは結構、その理屈にオレを巻き込むな」

にべもない。ヒルコさんらしい。

「ね、俺、居る必要ある?居る必要なくね?」
「だあってろ、夜卜。どうせ暇だろうが」
「………」
「夜卜さん、泣かないで。暇なのは悪いことじゃないですよ」
「違うんだって、忙しい時には引っ張りだこなんだって」
「はーいよしよしよーし」
「いちいちは夜卜ちゃんには厳しいねぇ」

ヒルコさんと大黒さんは無言の睨み合いを続けている。
私は完全に蚊帳(かや)の外。

私が拾った雑誌、開いたページの見出しには「古神、蛭子命!遂に神器を召したか」とあった。
我々は遂に衝撃の事実をーーー事実関係を調査、某日、蛭子命が神器を纏っていたと言う目撃情報――その証拠写真その事実から推察して―――、
写真はピンボケだが、ヒルコさんと思しき人と後ろに付く様に白衣の後ろ姿。もう一つはこれまたピントが合っていなくて、判然としないけど、何かを携えているのは明白だと、記事は解説している。

「他に神器(女)が居るんだろうがゴラア!吐けこのすっとこどっこい」

私は神界に関しては疎い。
神様は、通常複数の神器を従えているのが普通らしいというのが最近知った話。
本当の「器」の意味で使われた事が無い私以外の神器がいても、不思議じゃない。
秘密主義のヒルコさんが何をしてようと私には全くわからない。
神器として主を導くのが神器の役割ならば器として右腕になれればそれが本望なのだけれども、ヒルコさんは変わらず「必要ない」の一言に付した。
それは器として、他がいるから私は必要ないと言う意味だったのかしら。
ただ、私はヒルコさんの側にずっといて、だからも変わらない。でも、傷付いてない訳ではない。
ヒルコさんは、私の主。主と呼んで許される神器が私意外にもいる、繋がってる神器がいるそう考えるとやっぱりちょっと、嫌かもしれない。
「オレに器は必要ない」
ヒルコさんは身を翻して大黒さんの手を振り払った。

「おい、話は終わってねぇぞ!」
「一凛、来い、今日は出掛ける」
「あ……は、はい!」

私は慌てて背中を追った。





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